本
先週月曜日のラジオ番組で、ジャーナリストの青木理さんが、東京新聞を除いた各社が、一面からオリンピック報道一色ということに疑問を呈していた。ドイツ在住のジャーナリスト熊谷徹さんも同様のことをツイッターに投稿しておられた。 趣旨は違うが、それが…
ちょっと分厚いなと借りるのを躊躇したが、『ロング・グッドバイ』(レイモンド・チャンドラー著・村上春樹訳・早川書房・2007年)は、読み始めから警句に満ちて、私には哲学的な本への入り口とも思えた。面白くて読み急ぎたいのに、アレッこの言葉と、つい立…
"「事実」の不思議を扱ったエッセイが核になっている"(P・265)『トゥルー・ストーリーズ』(ポール・オースター著・柴田元幸訳・新潮社・2004年)は凄く面白い。 訳者あとがきで柴田元幸さんが端的にお書きになっているが、"金銭が(というかその欠如が)人の生…
非常に遅ればせながら『ノルウェイの森』(村上春樹・講談社文庫・2004年)を読みはじめて、何だこの軽やかさはと、次いで面白いじゃないかと驚いた。 繰り返される性に関わる描写は、単なる記号だが煩すぎてやや辟易するし、登場人物にも共感し難い部分が多い…
"君の能力と才能を絞りきってものを書け。そして弁明したり、自己正当化するのはよせ。不満を言うな、言い訳をするな"(『ファイアズ(炎)』レイモンド・カーヴァー著・村上春樹訳・村上春樹翻訳ライブラリー・2007年・「書くことについて」P・44) レイモンド…
『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(村上春樹・文藝春秋・2013年)では、音楽もキーポイントだ。曲に導かれるようにして、読み手もいつの間にかその世界に入り込んでしまう。気づけば、そこは既に映画のワンシーン。灰田文紹(フミアキ)が持ってき…
『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(村上春樹・文藝春秋・2013年)は、とてもよくできた物語だ。プロに対して失礼じゃないかとお叱りを受けそうだが、やはり、上手いなあとしか言葉が見つからない。 夏休みの社会科の課題である奉仕活動をきっかけ…
パリ在住の梨の木さんという方のブログに、ギリシャ土産に頂いた「ルクミloukoumi」というかなり甘いお菓子の事が書いってあった。そのちょっと前に、そのお菓子について本で知ったばかりの私は、おおここにもルクミかとそのタイミングに喜ぶ。 ブログでは、…
『やがて哀しき外国語』(村上春樹・講談社文庫・1997年)は、発売された当初、ウンウンと大きく頷きながら読んだはずなのに、内容はすっかり忘れていた。そんな自分にガッカリしたけれど、改めて読んでも(というのもおこがましいが)、考え方の芯にあるものに…
『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』は、中心にあるテーマ故に、心にズシンとくる映画だ。監督へのインタビューを読むと、ホロコーストの映画ではないということだが、かなり重要なポイントとなっている。「受け継ぐ者たちへ」というタイトルに、それが表れてい…
「英語で読む村上春樹」という番組(NHK第2・土曜日・再放送12時~)があって、時間が合えば聞く事がある。 英訳に続いて日本語の朗読があって、訳文ではなぜその単語が選ばれたのかが解説される。といっても、訳者本人ではないので推測もしくは考察だ。言葉の…
『未亡人の一年』[上]・[下](ジョン・アーヴィング著・都甲幸治・中川千帆訳・新潮社・2000年)は、とても読後感の良い本だ。『村上ラヂオ』に、この本の一つのテーマが寂寥感とあったので、その意味するところに興味が湧いて借りてきた。上下巻の2冊を…
"僕はもうなかなかの歳だけど、自分のことを「おじさん」とは決して呼ばない。"で始まる「ちょうどいい」(『おおきなかぶ、むずかしいアボカド 村上ラヂオ2』村上春樹・マガジンハウス・2011年・P・110)もいい。 "「私はもうおじさんだから」と口にした時点…
『おおきなかぶ 、むずかしいアボガド 村上ラヂオ2』村上春樹 文・大橋歩 絵・マガジンハウス・2011年)は、美味しいお豆腐のような本だ。あっさりのつもりで口に入れると、その味わい深さに驚く。 分厚く、細かな字がびっしりの本に疲れた後で、このような文…
ラジオで、オー・ヘンリーの『魔女のパン』を聞いたのを機に、改めて短篇集(『O・ヘンリー傑作選Ⅰ 賢者の贈りもの』O・ヘンリー著・小川高義訳・新潮文庫・H・26年)を読んでみた。『最後の一葉』や『賢者の贈り物』が有名すぎて、ああアレかと知った気になっ…
ラジオで、オー・ヘンリーの『魔女のパン』を聞いていたが、これは、他の話に比べてずっと身につまされる。 ざっとあらすじを紹介すると、多少の蓄えもある、パン屋を経営する中年の独身女性ミス・マーサが、画家と思しきドイツ訛りのある貧しげな中年男性に…
"おかしなはがきが、ある土曜日の夕方、一郎のうちにきました。 かねた一郎さま 九月十九日あなたは、ごぎげんよろしほで、けっこです。あした、めんどなさいばんしますから、おいでんなさい。とびどぐもたないでください。やまねこ 拝"(宮沢賢治・『どんぐ…
私がカラヴァッジョを意識するようになったのは、2001年に東京都庭園美術館で開かれた展覧会からだ。それまで、若桑みどりさん好きの友人を通してカラヴァッジョという名を聞いてはいたが、どんな絵だろうと思うくらいで、積極的な関心はなかった。それが、…
"団子の串刺し描法"?ユニークな表現に、セザンヌの〈聖アントワーヌの誘惑〉を見返しながら、うまいことを言うと可笑しくなる。確かに、そこに登場する女性たちは、お団子をくっつけたようにも、コルネと呼ばれるパンのようにも見える。 また、セザンヌの〈…
『ジーノの家ーイタリア10景』(内田洋子著・文春文庫)を読んで以来、この方が描く人物像に引き込まれ続けている。図書館でふと目についた『皿の中にイタリア』(講談社・2014年)も、期待を裏切らない本であった。 特に、「されど、水」のドイツ人一家には笑っ…
旅の本は好きだ。旅のコーナーにあった『愚か者、中国をゆく』(星野博美著・光文社新書・2008年)を、手に取ってパラパラめくっていると、次の箇所に目が留まった。 "人と荷物でぎっしり埋まった通路を通りぬけ、ようようトイレから戻ると、著者たち二人の座…
『ボローニャ紀行』(井上ひさし著・文藝春秋・2008年)を、単なる旅行記のつもりで読み始めたらそれ以上の面白さだ。イタリア全般についての考察の深さに、こちらもずんずん入り込んでゆく。 先月下旬、ヤマザキマリさんの講演を聞きに行った際、 "イタリアで…
『戸越銀座でつかまえて』(星野博美著・朝日出版社・2014年)は面白い。とりわけ3章の「あまのじゃくの道」は、好きだ。「行列のできる国」、「スシ食いねえ」、「健康センターの小宇宙」、「クリスマスの呪縛」と、書かれた当時(2008、9年)の日本の世相を上…
私は本好きで、比較的よく読む方かなとも思っているが、まだ縁のない作家もどっさりいる。むしろ、好んで読んでいる作家の方が圧倒的に少ない。たとえ流行作家と呼ばれ、作品が次々ヒットを飛ばそうが、なぜか手に取る気がせず、結局そのまま読まずじまいと…
浅田次郎さんの『パリわずらい 江戸わずらい』(小学館・2014年)を読んでいて、「続・消えた二千円札」(P・95)という話に笑ってしまった。 "二千円札が消えてしまったのは、やはり肖像画がないからありがたみに欠けるのだ。だったらこの際、各都道府県の偉人…
ページを開けた途端、"東京は坂と丘と谷の街である、と聞いてピンとくるのはよく歩く人である。"(『日和下駄とスニーカー 東京今昔凸凹散歩』・大竹昭子著・洋泉社・2012年・P・5)という序文が目に飛び込んで来た。 この本は、永井荷風の『日和下駄』を土台…
長谷川潾二郎の「猫」が表紙になった洲之内徹の本、『洲之内徹が盗んでも自分のものにしたかった絵』(洲之内徹・求龍堂・2008年)良いなと思い借りてきた。 エッセー集が元になっているので、取り上げられている絵も文章も、何度か目にしている。でも、洲之内…
『異界へのまなざしー アイルランド文学入門』(山田久美子著・鷹書房弓プレス・2005年)は、文学に関心ある人のみならず、多少なりともアイルランドに関心がある人にとって、非常に解りやすく読み応えのある本だ。 おこがましい言い方だが、通常、研究者の本…
この本の中で、(『高倉健インタヴューズ』(野地秩嘉・プレジデント社・2012年)高倉健さんは、気についてしばしば言及されている。 "いい映画には役者が発する気が現れている。役者同士がぶつかる火花と言ってもいい。"(P・20) "いい映画、いい撮影現場には…
私はクリストファー・ウォーケンが大好きだ。『ブルースが聞こえる(Biloxi Blues)』のトゥーミー軍曹には、当初まったくなじめず、従って名前も知らなかった。それでも、何となく気になる俳優さんではあった。 会社で同僚たちとお昼を食べていたら、年若い同…