ベルヴェデーレ宮殿上宮19・20世紀絵画館にあるグスタフ・クリムトの『接吻』は有名だが、私の関心はむしろ『ユディット』にあった。美術史美術館にあるルーカス・クラナッハ(父)の同テーマの作品も印象深く、絵葉書まで購入したが、旅先から出すのはためらわれた。
クリムトの描く法悦状態のユディットなら喜んでもらえるだろうが、生々しいホロフェルネスの首が強調された絵を鑑賞してくれるほどの美術好きは思いつかなかった。
さまざまな画家によって描かれた同じテーマの作品は、時代や画家個人の視点を知る手掛かりとなる。私の場合、絵画に関する定点観測としてのテーマの一つが、ユディットである。
次に訪れた造形美術アカデミー絵画館で、ボッシュの『最後の審判』を見ながら、気味の悪い絵とボッシュやブリューゲルを封印してしまった若い頃を思い出していた。今は寓意に思いを馳せるよりは、ユーモラスな部分を発見して楽しんでいる。どのようなイメージが湧き上がってこのような絵になったのだろうと、画家への思いは尽きない。
クリムト作品を見るために分離派会館にも立ち寄ったりしたので、頭がすっかり疲れてきた。ザッハトルテにメランジェ(カプチーノ)で一休みしようと、デメルに向かった。運よく座れたが、観光客で混み合う店内は、絵画の世界に浸るにはざわざわしすぎていた。
ふと、エゴン・シーレが好きだと言った人の顔が浮かび、そうだ!彼女にシシーことエリザベート皇妃の好物だったというスミレの砂糖漬けをお土産にしようと思い立ち、それを求めてからデメルを後にした。