照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

ベートーヴェンの小道

  シェーンブルン宮殿前庭の小高い丘に登ると、反対方向にブドウ畑らしきものが見 えた。それがホイリゲであった。ワインを飲ませる店が連なっており、周りにはブド ウ畑もある。
  通勤、通学の人々で混雑していた車内も、終点のグリンツィングで皆が それぞれの場所へ向かってしまうと静かになってしまった。 通りを外れて住宅街に入り込むと、さらにひっそりとした。ブドウ畑への 道も分からず、ベートーヴェンの小道への行き方など見当もつかず、どうしたものか と建築中の家を眺めながら佇んでいた。高い所で作業中の職人さんに聞くわけにもい かないし、聞くための言葉も持たない。その時、長い坂道を登ってくる老婦人に気づ いた。
  「グーテン モルゲン」と挨拶してから、「ベートーヴェン」を連呼する。身 振り手振りをフル活用のコミュニュケーションで、ブドウ畑の側にある霊園に、ご主 人の墓参りに行くということまでは解った。この機会を逃しては大変と、途中までご 一緒させて頂くことにした。 おかげで小川のほとりの散歩道や、ベートーヴェンの像があるところまでは何とか 辿り着いた。その辺りまでくると、散策する人の姿もちらほらと見られるようになり 心細さも消えた。クラッシックの世界には浅い私であったが、気分はすっかりベー トーヴェンに浸っていた。
  当初訪れる予定がない場所でも、柔軟に行き先を決められ るのが一人旅のよさだ。 ハイリゲンシュタットの駅で電車の出発を待っていると、先ほどの方も乗って きたので驚いた。お礼を申し上げただけで、話をする事はなかった。こんな時に多少 でも言葉ができたら、どれだけ豊かな旅になったことかと、後悔の念がよぎった。