照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

パリ トラヤカフェでの出会い

ブリュッセル南駅からタリスで、パリ北駅までは約一時間半だ。

チュイルリー公園側のホテルの部屋に荷物を置くと、サントノーレ通りをぶらぶらしながら十数年ぶりのパリに心が躍る。実用一点張りからおしゃれへと、ファッションが変わる。

トラヤカフェで和菓子でも頂こう思いついて、角を曲がる。
 
先客は、五十代と思しき女性が二人だけであった。
お茶を飲みながら寛いでいると、薄手の黒いコートにゆったりめの白いパンツの年配の女性が入ってきた。
持ち帰り用にいくつかの菓子を頼んだ後、私の隣のテーブルに着くといきなり話しかけてきた。

話し始めるとまもなく、先客二人連れも、話へ入ってきた。店内の客は、たまたま日本ばかりであった。

パリ郊外に住む、年の離れた妹さん宅へしばらくの間滞在する予定だという。
一人で子供二人を育てている妹さんを、手助けするためとの事。

五十代半ばを過ぎてから、TOEIC受験のために英語を学び、六十歳で海外シニアボランティアとしてインドネシアへ赴任していたという。
一年の予定が、請われて三年に伸びたという。
福岡でブティックを開いていたというKさんは、ソーイングを教えていたそうだ。 
生活習慣の違いから、ストレスを感じることも多く、それを絵を描くことで紛らわした日々であったという。
帰国後個展を開き、その収益金で、数人の教え子を福岡へ招いたという。

「まだフランスに来て一か月あまり、フランス語は難しいわ」とさらりと言う。
 
そこまで話した時、先客が「そのコート、絽の喪服みたいだけど・・・」と尋ねる自分でリフォームしたとのことであった。私同様そのコートが気になっていたようだが、襟の紋までしっかり見ていたとは。感心する。
「両親は健在なのに、コートに直しちゃたのよ」と、Kさんは屈託がない。
 
すごい人がいると、私も勇気が湧いてくる。
ちなみに、二人連れは義理の姉妹で、かつてパリに留学経験もあるお姉さんは、一年前にレストランを開店した弟さんの手伝いをしているという。妹さんはその弟である夫とともに、滞仏三十年以上という。

オペラ座へバレーを観にゆくというKさんが、先ず席を立つ。その後で、「よかったら今晩でも夕食にいらして」の言葉を残して二人が去る。

ここでお会いした方々は、私の周りにはいないタイプだ。黄昏ている場合ではないと、私も密かにファイトを燃やし始めた。
人生は楽しい。
弾んだ思いで私もカフェを後にする。