照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

ウフィツィ美術館にて

日本から予約したウフィツィ美術館への入館時間は昼過ぎであったが、入場券引き換えを先に済ましておこうと朝一番で出かけた。すると嬉しいことに、8時30分の券を渡してくれた。自分の予約時間より早いので、間違えてないかと確認をしたところ大丈夫と言う。8時15分開館の美術館は、券の有る者無い者それぞれが、すでに長い行列だ。私も喜んですぐ並ぶ。午前中の予約は空がなかったのに、この時間に入館できるのは、願ってもない事であった。

ジョット『玉座の聖母子』、フィリッポ・リッピ『聖母子と二人の天』、サンドロ・ボッティチェリ『春/プリマヴェーラ』『ヴィーナスの誕生』、ラファエロ・サンツィオ『ひわの聖母』、レオナルド・ダ・ヴィンチ『受胎告知』、カラヴァッジョ、レンブラント・ファン・レインと、ルネッサンスからマニエリスムバロック・・・数々の名品に言葉もない。

感嘆しながら回っていたが、アーニョロ・ブロンズィーノ『エレオノーラ・ディ・トレドと息子ジョバンニ』の絵の前で足が止まってしまった。冷たいガラスのような、表情の無い顔の描き方はともかく、着ているドレスの描写、殊に、質感に眼を奪われた。本物の布地か、織物の感触を確かめてみたくなるほどであった。もちろん筆によるものだ。

このような描き方をする画家は、これまでレンブラントしか記憶になかった。妻サスキアが着る、真紅のビロード地の衣装は、私に強烈な印象を残した。光と影の絶妙さで、生地の質感を浮かびあがらせていた。レンブラントは、カラヴァッジョの影響を受けているといわれているが、ブロンズィーノのこの絵が製作されたのは、カラヴァッジョの生まれる20年以上前である。

闇との対比で光を効果的に使う手法は、描かれた人物の内面までも照らし出してしまうようで見る者を惹きつける。先述したサスキアの衣装で、光の効果は質感にも及ぶと気づき、それ以降、私の絵を見るポイントが増えた。だが、カラヴァッジョ以前にもこのような絵が描かれていたことは、全くの驚きであった。マニエリスムにあまり関心がなかったことも手伝って、ブロンズィーノの名さえ覚えていなかった。自分の知識のなさ、言ってみれば世界の広さを知らなかった事がずしんと胸に響いた。

これほど足を引きとめられた絵はなかった。長い事絵の前に立っていたが、別の展示室に行ってはまた戻りを繰り返していた。朝早く入館できたおかげで、心ゆくまで見ることができた。旅行を止めるかどうか逡巡し続けたが、来て良かったと喜びがじんわりと広がる。美術館内のカフェでカプチーノを飲みながら、世界中から人が集まる訳だと納得していた。