照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

蛙のあいさつ 綾町 宮崎の旅 その2

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照葉大吊橋  綾町
 
宮崎へ行こうと思いたったものの、友人に会う以外は、何処かへ行くとか全く考えになかった。ところが、偶然英字新聞で綾町の記事を目にした。約8割が国有林の町に森林開発の話が持ち上がった時、伐採に反対し、貴重な照葉樹林を残すために奮闘した町長の話であった。その途端、ここに行ってみたいと思った。
 
照葉樹林を守るために奔走し 、夜逃げの町と呼ばれたこの地を、有機農業で再生した郷田實町長とはどんな方なのだろう。道の駅というアイディアで、人を呼び込む事を思いついたのも郷田さんだ。
 
道の駅は、今では全国津々浦々に取り入れられている。ちなみに綾町へは、年間120万人の人が訪れるという。なんという先見の明かと、町民のために奮闘し続けた姿に頭が下がる。郷田實さんは亡くなられているが、照葉樹林保護への取り組みは、長女美紀子さんへと受け継がれている。
 
友人の案内で照葉の森へ行った後は、薬膳茶房オーガニック郷田 で昼食を頂く。ここは薬剤師である美紀子さんのお店で、薬局に隣接している。医食同源に基づいた食事は、噛みしめるごとに素材の味が広がり、身体が生き返る思いだ。店内には、さり気ない野の花が活けてあったりと雰囲気もいい。土日などは予約がお勧めだ。
 
食事の後で、すぐ裏のピオス郷田 という宿泊施設へも案内して下さる。心が疲れた方がゆっくり休めるようにと、部屋もお庭も考え尽くされている。このような所に数日でもお世話になったら、疲れた身も心もどれほど解放されるだろう。何もないからこそいい。あくせく動く事などないのだ。檜の風呂に入り、庭で鳥たちの声に耳を傾け、身体が喜ぶ食事を頂く贅沢。私も機会があったら泊まりたい。
 
三人で造成中の庭を巡り、池のそばに立っていた時、反対側から蛙が水の中に飛び込んだ。そのまま私達の前まで来ると、石の上に上がってこちらを向いたままじっとしている。白地にこげ茶の縦縞模様という初めて見る蛙だ。挨拶しに来てくれたのかしらと、私達もまたじっと見ていた。美紀子さんにも初めての事だと言う。長い事そのようにしていた蛙も、ようやく踵を返すように再び池に飛び込んで何処かへ去っていった。
 
その後もしばらく、私は不思議な感覚にとらわれていた。蛙の挨拶なんて初めてだ。この池は、おとぎの国への扉なのだろうか。「宮崎は何もないのよ」と友人は言うが、大地そのものから発せられる力が漲る素晴らしい所だ。モニュメントなんて無くてもいい。宮崎では、行く先々で体調が良くなる経験をしたが、これこそが土地からの贈り物ではないだろうか。
 
宮崎の良さは、大地を踏みしめた時、静かに心と身体に伝わってくる。まさに豊穣の地だ。宮崎がすっかり気に入った私は、照る葉の森というブログ名もそのままこの地から頂いた。
宮崎の旅その3へ続く