照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

バンコクの路地から

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カオニャ  ラープ・カイ  イサーンソーセージ   タイ東北料理店 ハイにて  
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古さと新しさが混在  バンコク
 
サラデーンにあるタイ東北料理の店ハイで食事しようと歩いていると、「三丁目の夕日」を思わせるような路地が目に入った。
 
食事を終えてから、来た道を戻り路地の方へ曲がってみる。トタンで覆われた長屋のような家々が、古色蒼然と並んでいる。家の前の塀には、洗濯物がハンガーに掛けられ干してある。ある家では、土間に座った女性が魚を下ろしていた。その数軒先では、何人かで井戸端会議中だ。更に行くと、二人連れのごく若い男性が歩いてくる。自宅なのか、ある家の前で立ち止まると一人はそこにしゃがみ、一人は立ったままでいる。そのまま進むと長屋が途切れ、庭のような空き地のような所に家があって、ドタッとした感じのくすんだ白色の犬が 出てきた。続いて現れた黒犬や灰色の猫は、白とは違って機敏そうだ。だが、その後ろから顔を覗かせた飼い主さんに、白が一番可愛がられている雰囲気がある。世話がやける者ほど愛着が湧くのかもしれない。但し私の憶測だ。
 
更にその先には、屋台一式が何台か置いてある空き地が見える。通り抜けできるのだろうか。二人連れが来たのだからと覗いてみるが、あまり奥まで行くのも気がひける。結局よく判らないので、引き返す事にする。先程の男性たちはまだ家の前にいた。目が合ったので軽く挨拶すると、笑顔が返ってくる。笑顔は世界共通の言葉だ。ふと、初めてバンコクを訪れた年のプラットホームでの事が蘇る。
 
早朝スワンナプーム空港に着いた私は、エアポートリンクでパヤタイまで来て、BTSスクムビット線に乗り換えた。ホームで電車を待っていると、やや離れた所に立っている日本人カップルが目に入った。女性がこちらをじっと見ていたので、空港から同じ電車に乗り合わせた方たちだったのかもしれないと、笑顔で軽く頭を下げた。するとこちらの挨拶には答えず、連れの男性の耳元に何か囁き、今度は二人でこちらを黙ったまま見る。気まずい瞬間だ。東京の感覚でいればよかったものをと思うが遅い。
 
同胞ばかりか異国の人であっても、見知らぬ人へ不躾な視線を寄越す人は稀だ。目が合って挨拶すれば、気持ちの良い笑顔が返ってくる。それ故にこのバンコクでの件は、些細な事ながら心に刺さったまま忘れ難く残っている。人としての余裕が無くなっているのではないかと思えた出来事であった。
 
路地を抜けて表通りへ出れば、皆夕方からの営業に向けて忙しくしている。屋台に満載した商売道具一式を、段差のある歩道へ押し上げる女性二人。荷物に混じって、幼子が表情も変えずに座っている様子はユーモラスだ。人々の暮らしが身近に感じられる街には、温かさがある。誰かと目が合っても、敵対するような視線はない。路地の向こうに聳えるような、近代的なビルだらけになってしまったら、このような温かさは消えてしまうのだろうかと、ふと思う。
 
それぞれの国と街には、当然ながら光と影の部分がある。性善説だけでは無防備過ぎる。だが初めての場所でこそ、その街へ、そこで暮らす人々へ敬意を込めて笑顔で挨拶したい。そうするうちに危険を察知する勘もついてくる。能面のような顔で通り過ぎるのは、それからでもいいと改めて思う。
 
年末年始は、来し方を振り返り、より良い明日へと繋げるためには丁度良い機会だ。この一年が、誰にとっても穏やかな年でありますようにと祈る。