照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

スキー初心者の頃 恐怖心の克服 その2

現在は麓までゲレンデとして整備されているが、当時はそうではなかった。私は、まったく途方に暮れてしまった。試しにほんの少し滑ってみたが、恐くて動けなくなった。連れが側で指示してくれるのだが、踏み出せなかった。やっと動けたと思えば、何の事はない。ただ横へ移動しているだけで、下手すると登ってしまう。本人は滑っているつもりでいたが、ただ逃げているだけであった。

日暮れも近いし、何時までもそうしてはいられない。スキー板を担いで、深い雪の中を歩く方が大変そうに思えた。ようやく覚悟を決めて滑り始めた。今思うと大袈裟のようだが、谷底へ飛び込んで行く思いであった。滑っては転びを繰り返し、とうとう下まで行くことができた。下に近づくにつれ、あまり転ばず滑れるようになった。雪深い状態であったのが幸いし、怪我をすることもなかった。

到着した駐車場辺りから上を見上げれば、歩かなくて良かったと安堵した。自分だけで歩くのもままならないだろうに、スキー板まで抱えるとなったら、どれほど時間がかかったであろうか。だが、なぜあれ程恐かったのか。その正体は何であったのだろう。自分の力だけが頼りという状況下で、全く対処の仕方が分からなかった、という事だと今は分析できる。おかげでそれ以来、何事にも、勇気を持って慎重に対処すれば、前に進めるという事も分かった。

恐怖心を克服するという経験は、私にとって初めての事であった。一度このような経験をすると、スポーツ以外でも、興味がある事は何でもやってみようと積極的になった。但し、関心のない事には、肝試し感覚でチャレンジしようという気は今もってないが。

これ以降、俄然スキーが楽しくなってしまった。滑るコツを掴めた気がして、リフトに乗る間ももどかしく思う程、何本でも滑りたくなった。それまでのように、ぼんやりコーヒーなど飲んでいられなくなった。あまり休まず、調子に乗って滑り過ぎ、手首や足首を捻挫したのもこれ以後だ。気持についてゆくには、身体が疲れ過ぎていたのに無理をしたのが原因だ。ある程度の恐れを持って、用心するのも大事だと学んだ。無謀と勇気とは違う。はやる気持ちを抑えて、一先ず下がるのも勇気だ。

バックカントリーと呼ばれるゲレンデ外がスノーボーダーたちに人気で、それが遭難につながっているというニュースに、ふと思い出した若い頃の話だ。こうして振り返ってみると、些細な出来事に何とオーバーなとさえ思えるが、やはりいい経験となった。人には、その人の器量に合わせた事が起こるものだ。私にはこれくらいの事で、丁度良かった。