照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

人が伸びるとき ある一例

人はどのような時、伸びるのだろう。技量が自分より上の人たちに混じって練習した後、自分の力がついたと話すスポーツ選手もいる。

優秀な人と仕事する事で伸びる人もいるが、そうでない場合でも、いつの間にか伸びている人もいる。私の周りの新卒入社を見ていると、人により実にさまざまだ。

A君は、何でも要領良く済ませたいちゃっかり屋さんタイプであった。入社間もなくは、言葉遣いも知らなければ、文章も上手く書けなかった。だが、上司に恵まれた。あまり細かい事や無駄な事は言わないが、ここぞという時は、厳しく的確な指導をする。A君は上司と行動を共にするうちに、営業としての話し方も覚え、やがて独り立ちした。たまたまホームページから問い合わせ頂いた会社とご縁ができ、大規模受注へもつながった。それは、本人へもかなりの自信となった。

A 君より更に数年後に入社したB君は、側から見れば、とんでもない上司の下への所属となった。B 君より前に、中途採用で二人入社したが、数ヶ月から一年で愛想を尽かして辞めてしまった。その上司は、本人は仕事をきちんとこなすタイプであったが、部下を育てる事には向いていなかった。長らく仕事を共にしてきたひとりの部下を大切にするあまり、他の者には厳しかった。むしろ仕事への指示が、無茶苦茶にさえ思えた。

B君は神経性の腸炎になったり、ストレスによる蕁麻疹が出たりと、身体は相当なダメージを受けていた。前任者二人が続かなかったため、本社からも、B君に配慮するよう、業務課に指示がきており、回りでも皆それとなくB 君を見守っていた。身体が異常信号を出し続けても、本人は、卒業間際にやっと見つけた職場を、すぐ辞めようとはしなかった。自分の部所以外の者に話を聞いてもらいながら、上司から言いつけられた仕事を愚直にこなしていた。

それから数年経ったある時、B 君は、かなり大口の契約を結ぶ事ができた。あまり営業に同行させても貰えず、新規顧客対応のため殆ど事務所にいた。ある時、ホームページからの問い合わせが、彼にチャンスをもたらした。それまでの受注は、今回に比べるとだいぶ小口であった。

B君によると、10社でのコンペになったそうだが、最終的に先方の担当者が、価格ではないと、B君に発注してくれたそうだ。彼の上司のダメ出しは、まるで自発的な退社を促すようにさえ見えたが、全てを否定されてもB君は必死に食らいついていた。自分はだめだとさえ思っていたようだが、見る人には見えたという事か。最後は人で選んで貰えたという事が、B君に自信をつけたようだ。それ以来、顔つきも変わって、グンと成長した様子が見てとれる。

A君B君に共に有名大学出身ではない。打てば響くタイプでもないためか、自分の未熟さを自覚していた。プライドがない分、他者の助言には素直に従う。また、指示された事は必ずやる。それと二人共話好きだ。最初は、少し話し過ぎるきらいもあったが、次第に場に応じた会話が出来るようになった。所属した部署の上司も、本人の性格も真反対の彼等だが、環境に関わらず懸命に仕事に取り組んでいれば、ふいと花開く時期があるのだなと感じ入った。移行前の消滅した会社を知らない彼等にとっては、自分の力だけが全てだ。古い社員たちに残る、以前の会社のブランドや知名度は、二人にとって何の助けにもならない。

それにしても、人が伸びる前には、まるで仕組まれた如く、ちゃんと試練が用意されていて面白いと思う。A君の場合は、面倒な事は回避したいタイプだったが、自分が矢面に立たざるを得ないような事が次々に起きた。仕方なしではあっても、それに向きあっているうちに、責任感も生まれ、対処も上手くなった。B君の場合は、理不尽な上司の下での日々が、試練のようなものであった。

いずれにせよ、そこで覚悟がつくかどうか、試されるということかもしれない。例え泣きながらでも踏み止まれれば、その先の門が開かれる。何でも簡単に諦めずやってみる事だ。サナギは蝶になる。