照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

イスラム文化への入り口に

小田急代々木上原駅からほど近いところにあるモスク(東京ジャーミー&トルコ文化センター)には、このところ、見学に訪れる人が急増していると言うニュースをラジオで聞いた。IS(Islamic State)に誘拐された後藤健二さんが、残念な結果になって以降のことのようだ。これは推測だが、後藤さんがこれまでやられてきた事やお書きになった本に触発され、イスラムの世界を少しでも知ろうとする人が増えたためではないだろうか。
 
私もイスラム文化については全く知らず、中東の国々の位置関係さえ覚束なかった。若い頃、ベドウィンの暮らしぶりを研究者の目で書いた本を読んだ事があったが、今では題名も著者名さえもすっかり忘れてしまっている。だが昨年、たまたま知り合ったライターで写真家の常見藤代さんの著書、『女ノマド、一人砂漠に生きる』を電子書籍版で読んだ。この本には、砂漠で暮らす遊牧民の女性・サイーダに同行させてもらった日々の経験が主として綴られている。
 
町に移り住む人が多くなっても、サイーダは、砂漠が一番好きだからと、その暮らし方を変えない。最低限必要な物だけを持ち、ラクダたちと共にたった一人砂漠で暮らす生活は、なかなか興味を惹く。大切な水をラクダの背で運んでもらうため、自分の持ち物は極力少なくとどめる。後でお聞きしたら、藤代さんも、砂漠では二組の服で過ごしたと言う。この本は、イスラムの人々の考え方や暮らしを知るためにもぜひお勧めしたい、読み応えのある本だ。砂の中に潜む毒蛇が怖くて、私には藤代さんの真似は到底できないので、本を通してその暮らしを想う。

『女ひとり、イスラム旅』(常見藤代・朝日文庫)も、先月発売されたので手に入れた。そろそろ読み始める予定だが、面白そうで楽しみだ。イスラムを知ろうと手始めに読むには、こちらもいいかもしれない。イスラーム文化ーその根底にあるもの』(井筒俊彦岩波文庫)も読んだが、その宗教について本当に良く解る。読み難い本かと気を入れてページを開けば、思いの外すらすらと頭に入ってくる。三回の講演を通して語られたことがまとめられているためか、量も丁度いい。この本も合わせて読むと、イスラム文化への理解がより進む。

また、 つい最近読んだ、『イスラム戦争――中東崩壊と欧米の敗北』(内藤正典集英社新書)は、自分が関心を持たないでいた間に起きた中東での出来事に、改めて目を見開かされる思いであった。そのようにして振り返れば、湾岸戦争が起きた頃、作家をはじめとして文化人と呼ばれる人たちが、日本もお金だけ出して済ましていてはいけないと声高に主張していたのを思い出す。あの時も私は、日本にとってどうするのがいいのか考えあぐね、結局、更に深く掘り下げようとはしなかった。そして事態の収束と共に、いつしか頭の中から消えてしまっていた。だが、今この本を読んで、当時の事から知らなければ、今の状況を理解するのは難しいとわかった。読み進むにつれて、中東情勢やさまざまな紛争の背景がよく解る。
 
あと数年もすれば、世界の人口の1/3がイスラム教徒といわれている。そのような時代に、相手を知ろうともせず、解らないものは怖いとばかりに漠然と恐れていては何も始まらない。世界は狭くなったというが、それは移動手段のみであって、当然ながら地理的には、日本は東洋のはずれの島国だとしみじみ感じる。地続きで隣国に囲まれる国々とは、やはり違う。だからこそ意識的に、知らない国や人々を知る努力が必要だと思う。

日本が、道を誤らないためにも、今、イスラム文化及び中東情勢を知ることは、本当に大事だと感じている。そしてこれからは、ニュースを鵜呑みにすることなく、その背景をも考えて自分で判断していきたい。遅まきながら私も、通勤の隙間時間を利用してせっせと本を読みながら、イスラム文化への入り口に立ったところだ。