照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

『女ひとり、イスラム旅』を読んで

イスラーム文化ーその根底にあるものー』(井筒俊彦岩波文庫)で、イスラム文化の基本について知り、次に中東諸国の政治的背景を欧米との関わりから書かれた本等を読むと、現在の中東情勢がだいぶ理解できる。それから、普通の人々の暮らしぶりなどに触れた本を読むと、かなりイスラム文化への理解が進む。
 
『女ひとり、イスラム旅』(常見藤代・朝日文庫)を読んでみると、コーランに則った暮らしといっても、国ごとに多少の違いがあることも良く解る。本にでてくるチュニジア、ヨルダン、パキスタン、モロッコ、オマーン、エジプト、シリアと、常見さんが回られたイスラム圏の国々に俄然興味が湧くが、今は訪れる事が難しい国が多いので残念だ。
 
イスラム文化について知るまでは、宗教によって生活のすべてが規制されるのはずいぶん不自由だろうと漠然と思っていたが、そうではなかった。例えば結婚に関しても、女性が忍従を強いられた、かつての日本の暮らしから推し測ると、イスラムへの理解を誤ってしまう。日本のお見合結婚とはずいぶん違う。嫁が女中扱いされるような戦前の日本とは逆に、女性はかなり大事にされていると感じる。
 
常見さんがイスラム圏に行くようになったのは、大学で「東南アジア学」の講義を取ったことがきっかけだという。内気な自分を変えたいから旅に出ようと思った時、教授がインドネシア専門の方だったので、その影響もあって先ずインドネシアへ行ったそうだ。但し、きっかけがあったとはいえ、すぐさま行動に移す勇気がなければできない事だ。

行く先々で、見知らぬ方のお宅に泊めて頂いたり、優しくしてもらう経験を繰り返していくうちに、イスラム文化に興味を持ったという。出会った人に好印象を持つことで、その国の文化や人々に親しみが湧いてくるというのは、まったくその通りだ。しかし、常見さんの側にも、相手の文化に対する敬意があるからこそ、そのような出会いが次々に訪れたようにも思える。無遠慮に無防備に、ズカズカと相手の圏内に入り込むタイプの方ではなく、また、イスラム圏を旅する際の服装にも、十分配慮されている。

名所旧跡を観て歩くよりは、その地に住む普通の人々やその暮らしに興味があると書かれているが、私もまったく同感だ。行きたいと思ったら、観光化されていない辺鄙な所へも、車を雇い、途中からは歩き難い道を一人でゆくという行動力は凄い。だが、本を読んでイメージする常見さんに実際にお会いしてみると、そのギャップに驚くかもしれない。物静かな方だ。

イスラム文化を知るだけではなく、旅物語としても面白い。これまで知らなかった事にたくさん出会える本で、読み終えた途端、旅心が疼き出す。ぜひどうぞ。