照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

おやつの行方は・・・

おやつの行方なんて、題ほどには仰々しい話ではない。ちょっとした事務所内でのおもしろ話だ。

お中元やお歳暮、年始には、事務所内にお菓子が溢れるほどあって、おやつとして配られる。甘い物を食べない私はパスするが、皆結構嬉しそうだ。すぐには全部食べず、机の引き出しにしまったり、冷蔵庫へ保管したりしておいて、楽しみながら食べている。だが、日持ちのする物は、しまった事を忘れてしまう人もたまにいる。  

給茶器がある場所は衝立で仕切られており、冷蔵庫や電子レンジなどが置かれている。給茶器は、緑茶とコーヒーと水の温と冷が選べるよくあるタイプだ。私は水かお湯を飲むことが多い。ある朝給茶器コーナーへゆくと、Iさん(男性)が冷蔵庫を開けて何やら探していた。振り向いて、私に気づきギョッとしたような顔をした。

どうしたのそんなに驚いてと声をかけると、手にした茶封筒を見せながら、お腹空いたからチョコでも食べようかと思ってという。そして封筒を開けようとした途端、電話と呼ばれ、台の上にそれを置いたまま席に戻った。私も、紙コップを手に席に戻る。

長電話が終わって給茶器コーナーに戻ったIさんが封筒を開けようしたところ、今度はYさん(女性)がやってきた。茶封筒を見て、あらそれ私のだけどどうかしたという。内心は相当驚いたIさんだったが、冷蔵庫に封筒があるから、何かと思って確認しようとしたんだと答える。私 おやつに貰ったチョコ入れて置いたのというYさんに、そうなんだ、じゃあまたしまっておくねと冷蔵庫へ戻した。

給茶器コーナーからさりげなく出て来たIさんは、タイミングが良いのか悪いのか、またまた近くに居た私に気づくと、再びギョッとしたような顔をする。私は、すかさずIさんの側へゆくと小声で、口堅いから大丈夫と言う。が、困惑したような顔で、何の事ととぼけるので、チョコの事、Yさんには秘密にしておくから、と更にだめ押しをしておく。

それから数日間、チョコとか、ガーナとか言うたびに、二人で大笑いになって、ナチュラルキラー細胞がだいぶ活性化した。それにしても、悪い事は出来ないものとしみじみ思う。あまりに、タイミングが良すぎて、まるでコントのようであった。多忙な合間にこのような息抜きは、ほっとして心が和らぐ。私がすっかりこの事を忘れた頃、Iさんが持ち出したりしてまた笑わせてもらう。

Iさんの名誉のために付け加えると、誰でも食べられるように各種あめを 蓋つきの入れ物に置いている善意の人である。但し、ご相伴に与る人は口々に、あめのセンスが悪いとか、たまには高級あめにしてとか喧しい。Iさんの好意ということなど失念している。それはそれで、おもしろ話に発展して楽しくなる。あめは食べない私もあめ話には加わって、ナチュラルキラー細胞活性化に努める。おもしろ話は、心の栄養だ。ところで、Yさんのチョコも、無事持主の元に戻って良かった。