照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

パリの美術館は凄い 初ヨーロッパ③

パリでは美術館ばかり行った。最初はルーブルだ。朝早く、モンマルトルの丘に登ってパリの街を眺めていた時、出会った人が、ルーブルは早く行かないと混むと教えてくれたので、すぐに向かった。

急いで行こうと地下鉄に乗ったのはいいけど、乗り換えを間違えてだいぶ遠回りをした。途中で気づいた母さんは、側の人に路線の確認をしていた。ベルギーから観光に来ていた人たちであった。その途端、母さんはたどたどしいフランス語で、私は日本人と自己紹介した。来る前に本で覚えたフランス語を、使いたくてしょうがなかったに違いない。

美術館に到着してみれば、ピラミッド型の入り口の前には、もうすでにたくさんの人が並んでいた。行列にうんざりした僕は、モナリザは見なくていいから、ここはパスしようと言いたかった。だが、黙っていた。

地下鉄の中で母さんが、今度は私の番よと言ったのを思い出したからだ。エッフェル塔に登ったり、セーヌ河クルーズをする前には必ず、これは君たちのための観光と、恩着せがましく言う。美術館へ行く時、僕らに文句を言わせないつもりだ。ロンドンでもそうであった。ただ、どこへ行っても僕たち以上にはしゃいでいたのは母さんだ。何しろ、初めてのヨーロッパなのだ。

ルーブルを出て食事した後は、オランジュリー美術館へ回る。ここは、モネの睡蓮で有名な美術館よと言われたが、僕はそんな名前、聞いたこともなかった。ただ母さんについて回るだけで、絵なんてつまらないと思っていた。でも、出口近くのショップでお土産を見ているうちに、モネの睡蓮の絵をぐるっと巻いた三角形の鉛筆入れが目に入った。中には、三角の形をした鉛筆が3本入っている。

早速母さんに、僕はモネの絵が大好きで、この鉛筆入れも是非欲しいと力説した。本当に?と、疑い深い顔をした母さんは、弟までが欲しいと言い出したので、仕方なしに買うことを決めた。弟には、僕が圧力をかけておいた。

次の日は、オルセー美術館だ。ここで僕はびっくりしてしまった。女の人が裸でいる大きな絵があって、その前から動けなくなってしまったのだ。何を思ったのか弟は、先の方へ進んでいる母さんを呼びに走って行ってしまった。大変大変、兄ちゃんが大変と、訴えたらしく、自分の世界に浸り、唸りながら絵を眺めていた母さんが、慌てて戻ってきた。

この部屋にずっといたい気もしたけれど、僕一人だけはぐれてしまうのも嫌だ。何しろここはパリなのだ。ホテルに一人で帰ることなどできない。第一お金だって持っていない。

それにしても僕は、ここを離れたら、後はどれだけつまらない思いをしなければならないのだろう。誰かに従いて歩くだけの旅は辛いな。弟なんて、絵は全部パスしたいに違いない。ああ、でも母さんの目的は美術館なのだ。変な物が好きな母さんだ。それにしても僕が、あの絵以外に興味を持つことなんてあるのだろうか。まったくもって疑問だ。だが、こんな凄い絵があるなんて、やっぱりパリは素敵だ。