「時を守る戦士」を見に行くの巻 初ヨーロッパ④
パリでの美術館巡りにあきあきした僕は、ポンビドーセンターに行くより「時を守る戦士」を見たいと主張した。そんなの何処にあるのと聞く母さんに、僕はガイドブックの欄外にある読者情報を教えてあげた。丁度行きかけたポンビドーセンターからも近い。
渋々同意した母さんだったが、場所がよく分からない。近くを歩いている人に聞くが、誰も知らない。母さんが尋ね続けて何とか辿りついてみれば、さほど大きくないカラクリ時計が、壁に突き出ていた。
疲れたから、この前のカフェで休もうということになった。丁度12時になって、戦士が、竜や鳥、蟹と闘い始めるのを見ながら、サンドイッチを食べココアを飲んだ。
母さんは、運ばれたサンドイッチを見るなりああ失敗したと言う。サンドイッチというのは、どこでも食パンだと思っていたらしい。実際ここはフランスなのだから、サンドイッチだって当然フランスパンだろうと僕は思ったけれど、黙っていた。
このカフェには、「時を守る戦士」の絵葉書も売っていた。道を聞いた時は知らない人が多かったけれど、やはりメジャーな場所なのだろうか。想像していたよりずっとこじんまりした「時を守る戦士」に、内心がっかりしていた僕だったが、下調べが役に立ったとちょっと嬉しくなった。やっぱり僕の目は正しい。ただ、それが解る母さんでも弟でもないのが、残念。母さんなんて、モンパルナス墓地へ行っても、誰のお墓も探せなかったのに。おまけに、僕も弟も歩きくたびれただけだった。
僕は一人孤独に荒野をめざし、道を切り拓かなければならない。そして、時を守る戦士のように、へなちょこ母さんと弟を守るのだ。ああ僕の前に道はなく、後に道はできる。僕は真の勇者に違いない。そこでパンにかぶりついている君らに、この崇高な気持ちが理解できるかな。だが、ココアを飲む弟の幸せそうな顔に、僕はうなだれる。どんな立派な考えも、食べ物の前では色あせる。駄目だこりゃ。サンドイッチでも食べてやれ。