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照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

食事の巻 初ヨーロッパ ⑤

僕が最初心配した食事問題は、何とかクリアできた。ロンドンでもパリでも最初の日に、母さんはまずハンバーガショップへ僕たちを連れて行った。アメリカでやっと覚えた、ハンバーガーの発音が通じるかどうか試したいらしい。度胸試しよと威張る母さんだが、それほどのことでもない気がする。パリでは、チキンを何と言うか分からず結局頼めなかった。食べている人がいたので、きっとあるはずだ。僕と弟はちょっとがっかりした。どこでも英語が通じると思ったら大間違いだ。どこが度胸試しだか、まったく大したことないや。

マクドナルドは、マァダァーナルスよと、従妹の人の受け売りを披露するが、ロンドンでもパリでも、あちこちにあるのはバーガーキングばかりで、ついに使うことはなかった。僕は、自衛策としていつでもどこでもビーフステーキを頼んだ。弟は、母さんと同じ物を頼んだり、僕と同じステーキだったりといろいろだ。何しろ弟の楽しみは、食事だ。

パリではクレープを買う時、母さんが教えてくれた通りに、ショコラバナナと言ったが、正しくは、ショコラバナーヌであった。次に控えていた弟に母さんが早速、ショコラバナーヌねと、今聞いたばかりのことを指導していた。

ルーブル美術館近くのレストランに入った時、僕は自分でビーフステーキの他にフライドポテトをフランス語で注文した。何と驚いたことに、ビーフステーキにも山盛りのフライドポテトがついていた。まったく余計なフランス語を覚えてきてと母さんに睨まれたが、どちらも食べきれず、結局残してしまった。でも、デザートのチョコレートケーキは食べた。

ケスカセと、片言のフランス語を話したくてしょうがない母さんが、デザートのメニューを指して訪ねると、実物を持ってきて見せてくれた。

指を3本立てればいいものを、アン、ドゥ、トロワと指を折りながら母さんが注文する。すると、離れた席にいたおじいさんが日本語で、イチ、二、サンですねと、合いの手を入れてきた。ただフランス語が話せない母さんは、イエスとおじいさんの方を見ながら頷く。ここは、ウィだろう。だってフランスだよ。でも、英語もフランス語もしゃべれない母さんには、どちらも似たようなものだ。

母さんにはまったく、ため息が出ちゃうよ。必要な言葉は知らないのに、あまり重要ではない言葉ばかりを覚えてきたんだから。「私は日本人です」よりも、僕のように、食べ物を単語で言えるようにしておいた方が役に立つと思った。

また、フランス語で道を聞いたつもりが、日本語解りませんと英語で言われてしまうと、私フランス語で聞いたのにねとプンプンした。フランスの人からすれば、それはフランス語からは程遠い聞いたこともない言葉だったに違いない。

でも、初ヨーロッパ旅ももうじき終わりだ。何とか飢えずに済んでよかった。日本に帰ったら、英語の勉強をしっかりやろう。母さんを見ていて、僕は決意した。母さんと僕と弟の初ヨーロッパ旅は、どう見ても珍道中になってしまった。だが、無事であっただけ良しとしよう。
終わり

*ロンドンからパリに向かう飛行機の中で、フライトアテンダントさんが僕と弟に、エールフランスのマークが入ったトランプと面白い色鉛筆、それにおもちゃの飛行機を持ってきてくれた。僕まで小さい子に見えてしまったようだ。初めは要らないと言ったのだが、弟のを見ているうちに欲しくなって、結局後で全部もらった。