照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

旅の始まりは夜行列車からー二十代初めの頃

私が若い頃、旅の始まりは夜行列車からだった。今ならさしずめ、羽田の深夜便を利用するような感覚で、東京や新宿、上野から出発した。一人の時もあれば、友人と一緒の時もあった。

土曜の夜、新宿から中央線で、上諏訪まで行き、そこから、バスに乗って、霧ヶ峰まで行ったことがある。その時は珍しく、総勢4人であった。

山登りに行く人々で混雑した電車の中では、良く眠れたのかどうかさえ、定かではない。だが、霧ヶ峰でバスを降りるなり、湿原をたっぷり歩いた。そのまま車山へと向かい、途中はリフトを利用しながら、白樺湖まで下りた。
 
白樺湖からは、小諸までのバス旅だ。色づき始めたりんご畑や、まわりの景色にうっとりしていたのもつかの間、さすが皆疲れが出て、ぐっすり眠り込んでしまった。
 
小諸に着くと元気を取り戻した私たちは、早速、「小諸なる古城のほとり 雲白く遊子悲しむ」とばかりに、小諸城址まで歩いてみた。だが、(歴史や情緒なんて、あっしには関係ありませんぜ)と、グーグー不平をもらすお腹をどうにかするのが、差し当たっての課題であった。

結局、懐古園に寄ることもなく、駅近くまで戻って、お蕎麦屋さんで食事をした。お腹が満たされた後は、電車の時間まで、駅前の店で土産物を見て過ごした。友人の一人は買い物好きで、どこへ行っても、懐かしいようなユニークな品を見つけてくる。

思えば、なぜかいつも、旅の始まりは夜行列車からであった。週休2日制になる遥か前の時代で、少し遠出するためには、そうせざるを得なかったのかもしれない。

日頃、山登りやハイキングに縁がない私たちにとっては、なかなかハードであった。もし今なら、車で簡単に回ってしまうかもしれない。だが、あのような、若さゆえの旅も懐かしい。

お金も時間もないが、さまざまな土地を訪ねてみたいという、旅心だけはいっぱいの頃であった。