ピノッキオとオールドアリス再び
山吹の茂みから現れた老嬢からいきなりピノッキオと呼ばれた僕は、つい「そうだけど、僕に何かご用」と応えてしまった。4/7(http://teruhanomori.hatenablog.com/entry/2016/04/07/033053)
すると・・・。
「実は、あんたに頼みたい物が事があるのさ」と、オールドアリスは、白いレースの手袋を外しながらおもむろに言う。
またもや突飛な申し出に一瞬戸惑うが、「それは何ですか。僕にできることですか」と、とりあえず聞いてみる。
「ピノッキオにならできると思ってね。そしたらうまい具合に、あんたが丁度ここに座って居たというわけさ」と、オールドアリス。
「で、頼みごとって何ですか」と、僕。急ごしらえのピノッキオだけれど、まあいいか。どうせ乗りかかった舟だもの。
「失くし物をしてね。どうしても探し出せなくて困っていたのさ」と言って、眉根を寄せた。
その表情を見た途端、(西施の顰に倣う)の故事が思わず浮かんできて、僕は内心ちょっと焦った。(そのような仕草は、美しい人にこそ似合うのですよ)と、親切心をだして教えてあげた方がいいものかどうか。それとも、真実も時には刃になるというから、ここはやはり黙っていた方が無難か。と、つい横道へ逸れかけたからだ。危ない危ない。この人は、僕の考えそうな事など、先刻お見通しなのだから、今の考えすべてご破算と、無理矢理頭から追い払う。
僕は慌てて、「ところで」と言ってから、「探しものは何ですか」と、節をつけて聞いてしまった。(あれっ、これって歌みたいだな)と、僕はまた考えが横へ逸れる。
"探しものは何ですか?
見つけにくいものですか?
カバンの中も つくえの中も
探したけれど見つからないのに
まだまだ探す気ですか?
それより僕と踊りませんか?
夢の中へ 夢の中へ
行ってみたいと思いませんか?"
(井上陽水・「夢の中へ」より)
頭の中で、歌詞が渦巻き始めていた僕は、ここまできたところで、ハッとした。もしかして、あの質問は誘導尋問だったのか。オールドアリスは、僕を舞踏会へ誘いに来たのかもしれない。
何を失くしたのかは知らないけれど、だいたい僕が、人の探しもののお手伝いなんてできるわけがない。ピノッキオは、魔法使いじゃないし。でも、夢の中へなら、一緒に行ける。ああ、ダメだダメだ。この人に、乗せられている場合じゃない。・・・でも、ちょっと面白いかも。
ファンタジーの世界への扉は、誰にでも開けられる。ハチャメチャでも、奇想天外でも、自分のお噺を紡いで、そこで少々心を休めてみるのも楽しい。