照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

雷の子が可愛らしい小噺

"雷様がそこいらをひと巡りして鳴らしの仕事に出ようとすると、女房が「あ、そう、御苦労さま。坊やもついでに連れていっておくれよ」と頼まれ、足手まといだとぼやきながらも、子どもに虎の皮のフンドシをしっかり締めさせ、背中に小さな太鼓をしょわせて、出かける。
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親子で太鼓を打ち鳴らして、ズラリと並んだ金歯を光らせて(それがイナビカリなのです)いるうちに、雷の子が調子に乗って走りまわるものだから、雲の切れ間から落ちちゃうの。落ちたところが眠っていた虎の頭の上でね。虎が怒って、うなり声をだして雷の子をおどかすの。子どもは泣きながら、ウェーン、おとっちゃん、フンドシがいじめるよう。"(『お勝手太平記金井美恵子文藝春秋・2014年・P・83)

"小学生の頃、お祖父さんに連れられて行った寄席で聞いた小噺"という設定で、この雷様の話が出てくる。主人公のアキコさんが、"子ども好みで可愛くて好きなんですけど"、と昔を懐かしむのだが、既に十分いい歳の私でも、何とも言えぬ可笑しみを感じ、雷の子の愛らしさが目に浮かぶ。

正蔵とあるので、後に彦六を名乗った8代目林家正蔵だと思われるのだが、"ウェーン、おとっちゃん、フンドシがいじめるよう。"を、聞いてみたかったなと思う。忘れたのか初めてなのか、記憶にない小噺だ。ちなみに、雷の子と虎で検索してみると、雷の子の様子がもう少し詳しくでている。

二十代前半、私は落語が大好きで、国立劇場小ホール(TBS落語会はここが会場であった)や紀伊国屋ホールへよく聞きに行った。落語のレコードを買い、噺を覚えたいと本も読んだ。それがいつしか足が遠のき、出かけることもなくなった。

落語にはまだ興味があるつもりだが、一度離れると億劫になって、なかなか腰があがらない。多分、自分が好きだった噺家さんの大半が、鬼籍に入られたのも一因ではないかと思う。でも、上記の小噺を読み、実際に聞いてみたくなった。落語は、やはり直に聞いてこそ面白い。

ところでこの本については、アキコさんの手紙(全編ほぼアキコさんから友人に宛てた手紙という形式の本)の辛辣さに、ほんの僅か倣えば、読んでも読まなくても別に・・、といったところかな。

おばあさんにさしかかったちょっと自慢しいの、中流意識溢れる女性たちが、オシャレなティールームで、脈絡もなく次々と頭に浮かぶどうでもいいことを、果てなくお喋りしている図が、アキコさんが暇にあかして書く手紙から想起される。まさにそれが作者の意図なのかもしれないが、ページを閉じられてしまう危険性の方が高い。やっとこさ最後まで行きついた私には、雷の小噺だけが収穫であった。