照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

雨の日は映画日和ー『二つ星の料理人』

朝から雨が強く降る日は映画日和と、昨日は『二つ星の料理人』(渋谷シネパレス)を見てきた。元気がでる映画だ。ラストが近づくにつれ、気が充満してくるのを感じた。それに、当然だが料理シーンもふんだんで、実際口にしなくても、味を想像するだけで十分楽しめた。

腕の良い料理人アダムが、自ら招いたトラブルでパリの二つ星レストランを去る。そして3年後、料理人としての再起をかけてロンドンにやってくる。三つ星を取るという目標が叶いそうになった時、あたかも自分の過去に復讐されるかのようなまさかの事が起こる。

アダム自身は、自分がした事への罰を自分に課し、それが達成して再び料理人を目指すのだが、迷惑を被った方は、本心では許していなかった。その絶妙なタイミングでの仕返しは、アダムを打ちのめす。(但し映画の中では、過去の断片が語られるだけなので、具体的に何があったのかは観る者の推測の域を出ない。)

全てが無に帰したと絶望するアダムだが、かつての同僚で、今は人気店のシェフとなっているライバルのリースから、その才能を高く評価され、料理人でいてほしいと言われる。そしてまた、アダムを取り巻く人々の優しさ、善良さが、人としてアダムに欠けていた感情を目覚めさせる。

やがて調理場に戻ったアダムは、ミシュランの覆面調査員らしき人が来店したと知らされても、もはやその存在に動じることなく、自分たちは自分たちにできることをすると言って、淡々と料理を作り続ける。料理を作る目的イコール三つ星獲得ではないと気づいたアダムは、まことに爽やかな顔をしている。

必要以上に感情移入させないようにしているのかと思うほど、しみじみやジーンとくる間が少なく、あっさりしている。このテンポの良さがいい。

それと、出番は少ないながら、医師役でエマ・トンプソンが出ていたのは、思いがけずも嬉しい収穫であった。私は、この女優さんの声とイギリス風のアクセントがとても好きだ。

後でこの映画について調べてみると、脚本がスティーヴン・ナイトとあって、『マダム・マロリーと魔法のスパイス』も手がけていることを知った。ちなみに私は、この映画も好きであった。

映画館を出てもまだ雨脚は強かったが、心はすっかり爽やかモードであった。こんな日は家にいて、雨音に耳を傾けているのも良いが、空模様など何のそのと、意気込んで出かけるのもまた楽しい。