照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

ほのぼのと幸せそうな猫

長谷川潾二郎の「猫」が表紙になった洲之内徹の本、『洲之内徹が盗んでも自分のものにしたかった絵』(洲之内徹求龍堂・2008年)良いなと思い借りてきた。

 

エッセー集が元になっているので、取り上げられている絵も文章も、何度か目にしている。でも、洲之内徹の本は、繰り返し読みたくなる。絵も、その都度見たくなる。

 

この「猫」についても、"長谷川さんの仕事の遅いのには泣かされる。"(P・97)とあって、そのやりとりが可笑しい。

 

"「猫」の絵だけは、6年前にもう完成していた。完成していると思ったので、私は譲ってくださいと頼んだ。すると長谷川さんは、まだ髭がかいてないからお渡しできませんと言った。言われてよく見ると、なるほど髭がない。
「では、ちょっと髭をかいてください」
と、私は重ねて頼んだ。すると長谷川さんはまたかぶりを横に振って、猫が大人しく座っていてくれないと描けない。それに、猫は冬は球のように丸くなるし、夏はだらりと長く伸びてしまって、こういう格好で寝るのは年に二回、春と秋だけで、だからそれまで待ってくれ、と言うのであった。"(P・99))

 

ずっと前、NHKテレビの日曜美術館で見たときから、印象に残っている絵だ。気持ち良さそうに寝ているのは、長谷川さん愛猫のタローだ。結局タローは、髭が描き終わらないうちに死んでしまったという。だから、髭は片側だけにしかない。

 

"・・・これには驚いた。なにも髭だけかくのに猫全体がそっくりこれと同じ形になるのを待つことはあるまい・・・"(P・99)と、洲之内さんは内心思うが、待つことにする。

 

この話を題材に、落語とまではいかないが、小噺のひとつもできそうだ。実際どのように会話が進んだのだろうと、声の調子や間合いを想像するたび可笑しくてたまらない。もしタローが、二人の側でその話を聞いていたとしたら、まったく愉快だ。それにしても、ほのぼのと幸せそうな猫、良い絵だ。