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照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

散歩がぐんと楽しくなる本ー『日和下駄とスニーカー』

ページを開けた途端、"東京は坂と丘と谷の街である、と聞いてピンとくるのはよく歩く人である。"(『日和下駄とスニーカー 東京今昔凸凹散歩』・大竹昭子著・洋泉社・2012年・P・5)という序文が目に飛び込んで来た。

この本は、永井荷風の『日和下駄』を土台に、下駄をスニーカーに履き替えて街歩きした大竹さんの、写真や手書き地図たっぷりの、いわば散歩の手引きエッセイのようなものだ。

私も歩き好きなので、この本に出てくる場所は結構分かる。若い頃は、尾根も谷もまったく意識しなかったが、竹村公太郎さんの『日本史の謎は「地形」で解ける』(PHP文庫・2014年)を読んで以降、地形を念頭に置いて歩くようになった。そのため日々の散歩ではまさしく、"東京は坂と丘と谷の街"を実感している。

"人が散歩している最中はなんとも不思議な意識状態にある。ここにいながら同時にここではない街の記憶を歩いている。あそこに似ていると思いながら過去に見たどこかの街の印象をまぜあわせ、虚構の街を造りあげているのだ。"(P・64)

まさに大竹さんが言われるように、見知った道筋でも、初めての光景でも、ここと似ているどこかを思い描きながら、自分の街を形づくっている。そして、誰かと共有するわけでもない、自分の頭にしかない地図が出来上がってゆく。その地図には、折々のささやかな花の名所も描きこまれている。

飽きもせず、毎日楽しく歩いていられるのもこの地図のおかげだ。そこへ地形の楽しみが加わって、あの坂を上り下りして、この田圃まで通っていたのかなとか、はるか昔、数百年以上も前の時代に想いを馳せる。私がよく歩く辺りには、よほどの坂でもない限り、特に坂名を書いた札は立っていない。たまに坂名を知る機会があると、由来を読み当時を偲ぶ。すると、さらなる想像が広がって面白い。

大竹さんの本には、坂ばかりではなく崖も出てきて、だいぶ興味をそそられる。もちろんそればかりではなく、荷風が項目ごとに分けて紹介したように、大竹さんも、テーマごとに東京を分かりやすく案内してくれる。

読んでいると、大竹さんが荷風の日和下駄の跡を辿ったように、私も、大竹さんがスニーカーで歩いた道をなぞりたくなってくる。そしてもっとたくさん、"東京の凸凹"を、足の裏に刻みつけたくなる。歩くのが、ますます楽しくなってくる本だ。