照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

『赤い酋長の身代金』は面白いーO・ヘンリー傑作選より

ラジオで、オー・ヘンリーの『魔女のパン』を聞いたのを機に、改めて短篇集(『O・ヘンリー傑作選Ⅰ 賢者の贈りもの』O・ヘンリー著・小川高義訳・新潮文庫・H・26年)を読んでみた。『最後の一葉』や『賢者の贈り物』が有名すぎて、ああアレかと知った気になっていたが、実は数篇を除き、ほとんど読んだことがなかった。

大半は他愛のない話だが、O・ヘンリー エンディングといわれるその結末には捻りが効いていて、どんなふうになるのかなとお話ごとに楽しみだ。『ハーグレーヴズの一人二役』や、『理想郷の短期滞在者』などが好きだ。

『赤い酋長の身代金』は、土地の名士の息子を誘拐してきたものの、子どもの悪戯小僧ぶりに閉口した相棒が、身代金の金額を下げてさっさと解放しようと言い出すのだが、これは、話そのものが可笑しい。

インディアンごっこで自分を赤い酋長と称する10歳の子は、見張り役のビルを相手に暴れまくる。子どもにいいようにあしらわれるビルは、あちこち引っ掻き傷やアザだらけだ。この辺りまで読んで、もしや映画『ホームアローン』は、ここからアイディアを得たのかなと思った。

結局身代金を取るどころか、自分たちがお金を払う羽目になる。子どもの父親からの、「無法の二人組御中」と自分たちに宛てた手紙には、250ドル支払うなら、子どもの引き取りに応じるとある。"「言うに事欠いて、図々しいにもほどがー」"(P・222)と怒るサムに、ビルはそれでいいと懇願するような眼差しを向ける。

何とか上手いことを言って子どもを家まで送り届けるのだが、肝心の子どもが、自分だけ置いていかれると分かるや、凄まじい声をあげビルの足にしがみついて離れない。ようやく子どもを引き剥がしてから、父親に押さえておいてくれと頼んで、大急ぎで逃げる。

家も学校も嫌いな「赤い酋長」ことジョニーは、二人と一緒に野宿したりする方がずっと楽しかった。またその父親はとてつもないケチな男で、身代金の支払いどころか、息子の不在さえも意に介さなかった。悪事を企む二人に適当な言葉かどうかはともかく、だがやはり運悪くと言うべきか、サムとビルには想像もつかない親子をターゲットにしてしまったのが悲劇の元だ。

「無法の二人組」とはいえ、コメディを見ているようだ。ジョニーを、何分押さえていられるかと聞くビルの恐怖っぷりが、もの凄く可笑しい。その親もまた、動物でも押さえているかのように、10分くらいならと答えるのも面白い。父親の腕の下で思いっきりジタバタしながら、明日からまた学校かと、ジョニーは溜息をついたかどうだか。

ところで、当時の250ドルは、かなりの額のお金だ。デパートで、週給8ドルで働く店員さん、5品40セントで食べられる食堂、と幾つかの話から物価を推察すると、二人にはとんでもない出費だ。ほんの出来心から、なんとまあというしかない。でもこの話は面白い。