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照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

考える手掛かりを与えてくれる本ー『やがて哀しき外国語』

雑感

『やがて哀しき外国語』(村上春樹講談社文庫・1997年)は、発売された当初、ウンウンと大きく頷きながら読んだはずなのに、内容はすっかり忘れていた。そんな自分にガッカリしたけれど、改めて読んでも(というのもおこがましいが)、考え方の芯にあるものにまったく古さは感じられない。

プリンストンーはじめに」でご本人は、
"これは「読めばすらすらアメリカがわかる」というような役に立つ本ではない。"(P・21)
とおっしゃっているが、当時のアメリカ社会の一端は見えてくる。特に、「黄金分割とトヨタ・カローラ」での、実際に自分で運転した経験から考察したアメリカ向きの車についての章は興味深い。

また、「バークレーからの帰り道」は、非常に心に残る話だ。空港カウンターで頼んだリムジンの運転手さんと世間話をしているうちに、ジャズの話になる。その人は親切な黒人のおじさんで、友人のジャズミュージシャンが日本に行った時のことなどにも触れ、話は弾む。ずっとジャズの話をしていて、その最後にふっと、

"「なああんた、ここの国で俺たちはみんな本当に犬のように扱われるんだよ。オー・ヤー」と静かな声で言ったとき、マイルスの本を読んだときに感じたのとはまた違ったある種の思いが、その静けさとともに伝わってきたように思う。"(P・130)

そして、呟くようにそれを口にした後、別の話に移ってしまったという。

あれから20年近く経っているが、その現実は変わっていないだろうなと、昨今の事件の報道など聞くにつけ、容易に想像できる。

"インテリのアメリカ人はどのようなかたちであれ、人種差別につながるようなことはまず口にしない。しかしそれと同時にどのようなリベラルな人であれ、ジェオグラフィカル(地理的)にはかなり明確に差別的な言及をする。これはとても面白い現象である。"(P・70)

と、当時はあからさまな差別発言は恥ずべきこととされた。しかし今やアメリカは、インテリかどうかは別にして、大統領候補が大衆の面前で堂々と人種差別的発言をする国となっている。この問題の根深さは、私などには到底解らないと思う。せめて、マイルス・デイヴィスの自叙伝『マイルス』を読んでみようか。

但し、
"この本はーというかこの本だけはー本当に英語で読むしかないと思う。・・・たとえどれほどうまく翻訳されたとしても、おそらく原文の息づかいの三割から四割くらいは消えてしまうだろうから。"(P・129)
ということだ。

ところでこの『やがて哀しき外国語』は、もう2、3度読むくらいが、忘れっぽい私にはちょうどいいかもしれない。"何かの「足し」"(P・21)どころか、大いに考える手掛かりを与えてくれる本だ。