照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

私にとっての旅

仕事をしている時、私にとっての旅は逃避であった。旅の予定を入れたその日から、早くこの場から逃れらたいと、出発の日を指折り数えて待っていた。一週間前になると、なぜこの日にしなかったのかと悔やむほどに、旅への思いがグンと高まり切ないほどであった。

もうすぐというのに、それでも急く心を宥めるように、あと何日、あと何日と、旅に出る日だけを頼りに職場に通った。ちょうど昨年のこの日は、仕事の後、会社の忘年会も済ませ、深夜便に乗るべく羽田に向かった。あの時の開放感は、初めての地へ赴く不安など吹き飛ばして尚余りあった。

今年の3月、いざ仕事を離れてみれば、旅へ向ける情熱が、消えそうなくらいガクンと下がっていて、正直自分でも驚いた。日程もたっぷり取れて、好きな時にいつだって行かれるというのに、ドウシチャッタノカナ?と考えていて、それまでの自分にとって、旅は単なる手段だったとようやく気づいた。

日常と切り離された、ココデハナイドコカなら、わざわざ外国に行くこともなかったかもしれない。もともと一人行動派ということもあったが、更に、一人で見知らぬ街の雑踏を歩いているなんて、カッコ良いかもとイメージしてしまった。

そして、どうせ行くならテーマをと、基本は街歩きながら、最初の頃は芝居見物、その後は美術館巡りとした。それだって、〈カッコつけを補強〉の感が無きにしも非ずだ。

ノルウェーフィヨルドを訪れるまでは、風景にはまったくといっていいほど関心がなく、街歩きも大都市ばかりが好みであった。だがひとたび、フロム鉄道に乗り、ショースの滝の迫力に圧倒されるや、自然が織りなす光景にも目が向き始めた。と共に、大都市よりは地方の町や村に、俄然興味が湧いてきた。

そうなると、自分を際立たせたいという気持ちなど消えてしまって、旅先での服装も、ますますシンプルになっていった。ファンデーションも口紅もつけず、欠かさずつけていたイヤリングさえ無しで、アクセサリーはバングルのみであった。

ちなみに、今回の旅では、白と黒の同じ形のTシャツを各2組に、こげ茶と黒という色違いの薄手ウールカーディガンと黒のスリムパンツが基本だ。そこに、2枚のストール、黒の薄手コートの下にグレーカシミアのロングカーディガンを合わせた。旅行中はTシャツも手洗いし、バスタオルで脱水してみたが、シワになることもなくきれいに仕上がった。

こうして、これまでの旅を振り返りつつ改めて考えてみるに、旅への情熱が弱まったというよりも、旅に対する考え方が変化したのかなと思う。

日常からワープしたいということさえない今は、もはやノルマの如く予定を入れる必要などないのだ。心が動いたら計画を立てればいい。見知らぬ風景を数多く巡るのもいいけれど、一ヶ所に留まっているのもいいなと思う。さてさて、これからはどんな旅になるのか、ちょっと楽しみだ。