照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

時には一枚の写真が語ってくれる言葉に耳を傾けてみる

春、シャガの花を目にするたび、"著莪(しゃが)は寂しき花なりき"という大木惇夫の詩の一節がセットのように浮かんでくる。若い頃、熊井明子さんのエッセイでこの詩を知ったのだが、確かに、シャガにはひっそりとした印象があって、群生していても地味な感じ…

方言っていいなと思うこの頃

先日、『秘密の花園』の朗読をラジオで聞き、ヨークシャー訛りが新鮮に感じられたと書いたが、そのすぐ後にタイミング良く、「方言まで訳すか、訛りまで訳すか」(『米原万里ベストエッセイⅠ』・角川文庫・2016年・P・24~34)を読み、改めて方言の持つ力に思…

物事を本当に理解するってどういうことか?考えさせられるエピソード

『米原万理ベストエッセイⅠ』(角川文庫・2016年)を読みながら、改めて、この方の鋭い洞察力やユーモアのセンスに、頷いたり笑ったりさせられた。中にはかつて読んだ話もあるが、ベストというだけあって、それまでのエッセイの中から選りすぐられたものなので…

『秘密の花園』を朗読で聞き、改めて本を読んでみた

正月の3日間は、ラジオ(NHK第二)も通常番組ではなく、そこでたまたま『秘密の花園』の朗読を聞いた。全4回ということなので、大晦日から始まったようだが、残念ながら1回目は聞き逃した。 私はこの本を、多分子ども向けのダイジェスト版で読んだのだと思うが…

ほのぼのとした絵本のような写真集『ブタとおっちゃん』

『ブタとおっちゃん』(山地としてる・(有)フォイル・2010)は、絵本みたいな写真集だ。昼寝するおっちゃんの横で、安心しきって眠る子豚。そこに漂うほのぼの感が、たまらなく良い。 子豚ばかりか、おっちゃんの側にいる動物は、皆安心しきって身体を伸ばして…

心に響く「藤原の桜」ー志村ふくみ『色を奏でる』より

志村ふくみさんの『色を奏でる』(ちくま文庫)は、ご自身が一枚の布として織りだされているかのような、とても味わい深い本だ。とりわけ印象深いのが、次の一章だ。 「藤原の桜」(P・116~122)は、大岡信さんの「言葉の力」という文章が教科書にのったことが…

『映画を食べる』ー池波正太郎

『映画を食べる』(池波正太郎著・河出文庫・2004年)を読んでいると、無性に映画が観たくなってくる。 『池波正太郎の銀座日記』も、映画と食の話が満載だが、こちらの方が、自分が実際に見た映画と多くが重なるので、面白味がグンと増す。更には、もう一度見…

自分は人とは違って個性的ーそれは大方の人が考えていることだ

モンサント(ポルトガル)へ向かう時たまたま道連れになったOさん。彼女の話を聞きながら、これまであちらこちらとよく一人旅してきたなと少々驚いた。 ツアー参加に個人旅と、年数回出かけているくらいだから、当然旅慣れているはずだが、やることがどうにも…

天才赤塚不二夫の背景ー『これでいいのだ』

『これでいいのだ 赤塚不二夫自叙伝 』(赤塚不二夫著・文春文庫・2008年)を読んでいると、日本中が貧しい時代、子どもたちは子どもたちなりに、まことに子どもらしく逞しく生きていた様子が浮かび上がってくる。 籐七・リヨというご両親のキャラクターが、人…

価値観の違いは生き方の問題ーどちらが良いとか悪いとかではない

前回に引き続き、『周平独言』(藤沢周平・中公文庫)から引用させて頂く。 「書斎のことなど」の章に、"・・・私は所有する物は少なければ少ないほどいいと考えているのである。物をふやさず、むしろ少しづつ減らし、生きている痕跡をだんだんにけしながら、…

旅の魅力は心躍る風景に出会えること

"そこがどのような場所であれ、はじめての土地を通過するときほど心躍るものはない。"(『周平独言』藤沢周平・中公文庫・P・295) "何かを見に行く旅、つまり観光旅行は、見なければ損だという気持ちになる。眼を皿のようにして、あちこちと駈けまわる。・・…

『役に立たない日々』に力が湧いてくる

『役にたたない日々』(佐野洋子・朝日文庫)が面白い。私は、この方のズバズバした、露悪的とも思える物言いが好きだ。人から、少しでも上品に、知的に見られたいという意識など、僅かも感じられないところに潔さがある。 "パンがなかったので、コーヒー屋に…

四国うどん巡りへ本日出発

旅 1 美しい絵葉書に書くことがない私はいま ここにいる 冷たいコーヒーがおいしい苺のはいった菓子がおいしい町を流れる河の名は何だったろうあんなにゆるやかに ここにいま 私はいるほんとうにここにいるからここにいるような気がしないだけ 記憶の中でな…

"言葉の代わりに、見て気がついていくことでその虫の気持ちがわかる気がする"

"いきものとおしゃべりするには、観察するのがいちばんだ。子どものころ、ぼくは、虫と話がしたかった。おまえどこに行くの。何を探しているの。虫は答えないけれど、いっしょうけんめい歩いていって、その先の葉っぱを食べはじめた。そう、おまえ、これが食…

日々の暮らしに疲れを感じた時はこの詩をー「小さな娘が思ったこと」

カフェで、耳に飛び込んできたママさんたちの会話に、だいぶお疲れかなと感じることがある。もしくは、理不尽に子を叱りつける声にハッとしたりもする。そんな時不意に、茨木のり子の、「小さな娘が思ったこと」という詩が浮かんでくる。 (ひとの奥さんの肩…

リニューアルオープンした図書館が快適でつい足が向く

先月初め、自宅近くの図書館がリニューアルオープンした。広くなって閲覧席も増え、幼児向けには、絵本の読み聞かせができる独立したスペースもある。 開館時間も、火曜日から土曜日までは、午前9時から午後9時で、それ以外の日でも午後8時までと長く、仕事…

"追求していく気持ちの強さ、それこそが才能"ー『永遠のディーバ』より

『君たちに明日はない』のシリーズでは、この4がとてもいい。どの章もそれぞれに味わい深いのだが、タイトルにもなっている「永遠のディーバ」が特に良い。 このシリーズは全て、リストラを断行せざるを得なくなった企業で候補に上った従業員と、それを請け…

猿が人間からペットボトルを奪う?

アジャンター、エローラにハンピとインド遺跡巡りの旅から帰ってきた次男から、猿が、人間からペットボトルを奪ったという話を聞きびっくりしてしまった。 ハンピ遺跡には、猿が祀られているハマヌーン寺院があるのが関係しているのかどうか分からないが、い…

笑いながらいつしか思考の淵へ

『眼ある花々』は、若い頃その題名に、オヤッと気が惹かれ読んだ紀行文だ。ここには、作家が訪れた国内外の地で、心に残った花々がその時々の思いと共に綴られている。題名からの連想で、ハマナスの花が眼となって、じっとこちらを見つめているイメージが、…

ダイナミックさが感じられる本ー『国境のない生き方 私をつくった本と旅』

散歩のついでに図書館に寄って、『国境のない生き方 私をつくった本と旅』(ヤマザキマリ・小学館新書・2015年)を手に取ってパラパラめくっていたら、開高健とか島尾敏雄という文字が目に入った。 安部公房をはじめ影響を受けたという他の作家についての記述…

主義を貫く凄まじい生き方ー井伏鱒二氏のエピソード『晴れた空 曇った顔』より

『晴れた空 曇った顔』安岡章太郎著・幻戯書房・2003年)に、"追筆 1993年7月26日・・・「他人をはばかる情愛の深さ」"(P・52~56)という井伏鱒二さんについてお書きになられた短い文章があるが、これもこちらの心に深く染み入る。 "井伏さんについて語る人は…

ちょこっと旅にー原田直次郎展をメインに萩・津和野へ

"私は旅が好きではないらしい。・・・やっとの思いで目的の土地に到着しても得るところは、せいぜい景色くらいのものである。・・・私はこれほどの苦労をして得た代償だと思うから一生懸命眼を見張って、何か意味はないであろうか、我々の人生に益する参考に…

ちょっとしたところにユーモアが顔を出す

開高健の『来れり、去れり』に、夜更けに見知らぬ客が来るので玄関の鍵を開けておくよう妻に話す場面がある。 "、たちまちおびえて、ぼんやりとなってしまった。「暗躍する秘密結社やろか?」どうにも用語が古すぎる。大学へいって多系物理学と原子科学を専…

読んだという手応えを感じさせられる小説ー『輝ける闇』を再読して

このところ、自分が若い頃好きだった作家の本を読み返している。開高健の作品では、順番からゆくと『夏の闇』より前に『輝ける闇』なのだが、読んだ当初よく分からなかった作品を、先に読むことにした。結果としては、それでよかった。 これは、新聞社の特派…

小説家は作品に自分のすべてを注ぎこむと改めて感じさせられた本ー『夏の闇』

『夏の闇』を読み終えると、底知れぬ虚無感にくらくらしてきた。若い頃読んだ時は、正直よく分からなかった。でも今回読み直して、意図するところが朧げながらではあるが見えてきた。 柿の種とチャプスイが好物の女と、虚無感を抱え怠惰に身を沈める男が、汗…

チェーホフ先生の迷惑げな顔をいつでも心に留めておきたい

「井伏鱒二のふるさと」に出てくる、(『晴れた空 曇った顔』安岡章太郎著・幻戯書房・2003年)ソ連を旅行したとき、トルストイ、ドストエフスキー、チェーホフなどの住居跡や別荘を見学して回る話がなかなか興味深い。(但し、50年以上も前のことだ。) 国家に…

胃袋の中でウナギがニョロニョロ暴れだす心持って?

「晴れた空 曇った顔 リヨンという街」(『晴れた空 曇った顔』安岡章太郎著・幻戯書房・2003年)は、ずっと昔、別の本に収録されているのを読んだことがある。料理とワインというと、決まってこの場面が思い出される。 リヨンに着いたばかりの著者は、空腹感…

『高倉健インタヴューズ』は時々開きたくなる本だ

私は、高倉健さんの、眼差しの温かさがジュワッとこちらの心に染み込んでくるような文章が好きだ。『旅の途中で』や『あなたに褒められたくて』を読み返すたびに、新たにジュワッという思いが広がる。 ところで、ご本人のエッセイとは別に、以前にも参照させ…

やはり人は見た目で判断するしかないかな?

"もし「洗剤意識」なんてのがあったら、「今日も汚い靴下と一緒にされてやだなあ」とか思うのかも" 『サラダ好きのライオン 村上ラヂオ3』(村上春樹著・マガジンハウス・2012年)は、珍しくほとんど風も無く、唯一、今週の村上(P・201)が、頬を撫でていったく…

「スガシカオ」を「透かし顔」と勘違いしたマヌケな話

「スガシカオの柔らかなカオス」(『意味がなければスイングはない』・村上春樹著・文藝春秋・2005年・P・193~216)を読んで思い出したことがある。といっても、文章とは何の関係もない末節もいいところだ。 日本のJポップを日常的にあまり聴かない著書が、ス…