照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

絵の見方は好きずき 自分なりの物語を

サンタ・クローチェ教会にある『受胎告知』を、3点写真に収めたが、マリア様と大天使ガブリエルの描き方がそれぞれに異なっていて興味深い。

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大天使ガブリエルの真摯な眼差しに対し、このマリア様の表情は、ずいぶん世俗的な感じがする。年下の若者が、憧れの女性にプロポーズしているが、ふんと軽くあしらわれているような雰囲気さえある。女性の「何さ」という言葉が聞こえてくるようだ。

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私が好きなのは、ドナッテロのレリーフだ。マリア様は、初々しいというより、賢そうな大人の女性という表情で、いずれ産まれ来る我が子の行く末までも見通して戸惑った様子さえ浮かべているようにさえ見える。

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入り口に描かれた絵は、遠すぎて表情まで汲み取れないが、これはごく一般的な受胎告知のイメージだ。

絵を見る時でもそれ以外でも、私はオーディオガイドを借りない。説明に惑わされるのが嫌だからだ。絵の背景を知るのもいいが、私は知識として絵を見たくはない。先ず自分の感覚で捉え、気になった作品をじっくり味わう。世に知られた絵であろうと、訴えてくるものがなければ素通りする。

絵の巧拙は、私には判らない。正直、私にとってそれは重要ではない。絵の前に立った時、心に響いてくるかどうかがポイントだ。また、好きな画家の作品でも、一向に興味が湧かないものもある。

絵の見方は、本当に人それぞれだ。良いも悪いもない。自分の好きに鑑賞すればいい。絵を見たり、クラッシック音楽を聴いたりするのを高尚な趣味と敬遠しての食わず嫌いはもったいない。好きなことに高低はないし、またそれは人間性とは何の関連もない。オホホと、人にひけらかすためでは無論ない。

私はずっとロック好きで、クラッシック音楽には露ほどの感心もなかった。それがたまたま、帰国する機内で聞いたビゼーの『アルルの女』(パストラル)に、何と美しい曲だろうと惹かれた。帰るなり、CDを買って毎日聴き続けた。それ以来20年以上経つが、ロックよりはむしろクラッシック音楽のファンになった。だが、ラジオのクラッシック音楽番組を聴いたり、時たまコンサートに行く程度で、音楽に関しては今もって不案内で知識もない。でも、自分が心地良く聴ければいいので、それで十分だと思っている。

自分の世界を広げてくれる物を求めて、私は旅しているのかもしれない。自宅と会社を往復する日々に、感動することはあまり起きない。旅に出ると、気分が変わるためもあってか、単純な私は、何にでも感心してしまう。見慣れない道端の草花にも心が動く。そうすると、心が豊かな思いで満たされる。私にとって、旅先で絵画に出会うのもそれと同じだ。皆さんも、自分なりの見方で、今まで関心がなかった物へも、ほんのちょっと目を向けると、旅がより心豊かで楽しくなると思う。どうぞいろいろなマリア様を見て、描いた画家の心の中へも旅して頂きたい。