ダヴィデ像2点 ドナッテロ作
ブロンズのダヴィデ像
大理石のダヴィデ像
フィレンツェ・バルジェッロ国立博物館には、ドナッテロ作のダヴィデ像がある。同じくフィレンツェ・アカデミア美術館にある、ミケランジェロ作の巨大なダヴィデ像とは、全く雰囲気が異なる。どちらもゴリアテの首を踏みつけているとは思えない、穏やかで優しい雰囲気が漂う。
帽子を被ったブロンズのダヴィデ像は若い女性のようにも見え、勇者からは程遠い感さえある。この若者が投石器を使って巨人ゴリアテを倒し、すかさず相手の剣を取り、その首を落とすまでを想像してみる。相手に力で向かうというよりは、知恵と勇気で、サラリと倒したのかのような涼しい顔をしている。
この作品に関しては様々な議論があるようだが、それら一切から離れて、像から自分なりの物語を喚起するのも楽しい。先に制作された大理石のダヴィデ像とも全く異なるこの像に、ドナッテロはなぜこのように表現したのだろうとの思いが湧く。ミケランジェロ作ダヴィデ像をも念頭に置いて眺めていると、想像の翼はぐんぐん勢いを増してゆく。
制作者や依頼者の意図はどうあれ、作品は見る者に委ねられている。自由に時代を行きつ戻りつしながら、たっぷりと彫刻の世界に浸れる幸せなひとときだ。ここフィレンツェでドナッテロの作品に出会うまでは、彫刻に何の関心もなかったのに、ましてドナッテロの名さえ忘れていたのにと、自分に可笑しくなる。
絵画でも彫刻でも、人でも街でも食べ物でも、あらゆる出会いは全て偶然の賜物に思えてくる。だからこそ、その瞬間を慈しみたい。