照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

晴れ着よりも旅に魅力を感じた二十歳の頃

私は、子どもの頃より、群れたり、安易に人に与したりすることは好まなかった。また、形式ばったこと一切が、苦手であった。そのため、親から、成人式用に着物を作ってくれると言われた時は、必要ないからと即座に断った。すると、服を買う費用にとお祝金が届いた。

もともと成人式に出席するつもりはなかったので、そのお金で、どこかへ行くことにした。
 
成人の日の前日、友人と二人で、新宿から夜行列車で松本に向かった。松本を選んだのは、近くて手頃だったことに加え、たまたま読んだ雑誌に、「珈琲まるも」という喫茶店が紹介されていて、俄然興味が湧いた。
 
15日の朝、松本駅に到着すると、かなりの雪だった。だがそれも、駅前の喫茶店で暖をとっている間に、止んでしまった。

先ず、松本城、次に開智小学校を見学しながら街歩きをする。お昼は、楽しみにしていたお蕎麦を頂き、再び街歩きだ。その後で、観光案内所で紹介して頂いた美ヶ原温泉の旅館へ、バスで向かう。
 
旅館へ着き、部屋へ案内された途端、疲れ過ぎていたのか、二人とも眠り込んでしまった。何を食べたのか、温泉へ入ったのかさえ、今となっては、何も覚えていない。美ヶ原という名前に惹かれて行ったのだが、どのような所かさえ記憶にないのは、少し残念だ。機会があれば、もう一度訪ねてみたい。
 
翌日は、またバスで市内まで戻り、晴天の中、田圃道をうらうらと歩いて珈琲まるもへ向かった。なぜ、田圃の辺りへ行ったのか、こちらも謎だ。単に道に迷ったのかもしれない。
 
だがそのおかげで、どんど焼きを見ることができた。15日の小正月に、お正月の飾り物を燃やす風習は、関東の、私の育った地にはなかった。

一緒に行った友人とは、小学に入学して以来の付き合いで、当然、彼女にも初めての光景だ。土地の人には何でもない事でも、たまたまそのような場に居合わせた私たちには、ちょっと嬉しい出来事であった。
 
まるもは、雰囲気のある落ち着いた店で、居心地も良く、たっぷりと休ませてもらった。珈琲を頂いた後は、山々を眺めながら、また遠回りして駅に向かった。山とは、無縁の地で暮らしていためか、山にどこか憧れがある。

電車に乗ってからも、ずっと山を見ていた。やがて新宿に到着、成人の日は、このようなささやかな旅で幕を閉じた。おかげで、成人式に出席するよりも、私にとっては、まことに有意義な日となった。
 
今振り返っても、あの時、松本へ行ってよかったと思う。特に決めた予定もなく、ただ足の向くまま、歩いたり休んだり。それは、今の私の旅スタイルと変わらない。効率良さとはまるで正反対だが、私にはぴったりで、これからも、そのような旅を続けていきたい。まさに、私の旅の原点のようでもあった。