照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

心が温かさを求めた時には『旅屋おかえり』をぜひどうぞ

『旅屋おかえり』(原田マハ著・集英社・電子版)は、読み終えた途端、身体中が温かさに包まれる本だ。登場する人のほとんどが、思いやりに溢れた優しい人ばかりで、現実からやや離れている感もあるが、世の中が殺伐としている時には、それが嬉しい。

住民の反対で保育園開園が取りやめになったというエゴ向き出しと思われるニュースに、気が重くなった。すると今度は、東京の保育園にも関わらず、熊本の地震にかこつけてクレームを入れてくる人もいると知り、げんなりしてくる。そんな時、『旅屋おかえり』を読み、心がホッとした。

実は気づいていないだけで、本の中のような人たち、一杯いるんじゃないかと思えてきた。作中の「ちょっび旅」に倣って言うと、人の心にある優しさを、皆が(ちょっびっと)づつ持ち寄れば、きっと、『旅屋おかえり』が実際のものとなるだろう。但し、その優しさを引き出す、「おかえり」こと丘えりかのような存在が必要だが。

"紙の繊維はね、こうして、叩かれて叩かれて、強く、美しくなるんだよ。
・・・・・
叩かれて叩かれて、強く、美しくなる。
その言葉は、真理子さんの人生そのものだった。
同時に、私は、私を支えてくれた人たち・・・"
(文中より)

このような感受性を持つ人がいて、はじめて引き出される、人の持つ本質的な優しさ。現実世界に、本の中のおかえりはいないけど、おかえり的要素を持つ人なら誰もがおかえりになれる。相手を想う心が、人と人を見えない糸で結んでゆく。人の心をほぐしてゆく。(ふん、そんな寝言・・)と、そっぽ向かれそうだけど、できたらいいなぁと思う。

ところで、真理子さんとおかえりが墓参りするところからラストにかけて、そのシーンがまるで映像のように浮かんできて、涙が止まらなくなって困った。映画ならともかく、本を読んで涙がでるって、私にはあまり経験のないことだ。

涙には浄化作用があると聞くが、鬱陶しい社会の諸々から、濁った気持ちを浄めたくなったのかもしれない。言論の自由をはき違えているような、ツイッター上のつまらぬ戯言に燻んだ心を、洗い流された思いだ。大人にだって、時にはファンタジーが必要だ。身体が温かい飲み物を欲するように、心が、温かさを求めた時にはぜひどうぞ。