照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

見終えてからずしりと心に残る不思議な映画『バベットの晩餐会』

恵比寿ガーデンシネマで、『バベットの晩餐会』を観て外に出ると、回りの木々全てが気持ちの良い緑色に染まっているのに気づいた。来た時も同じ光景を目にしているはずなのに、時間を気にして気忙しく歩いていたため、感じる余裕がなかったのかもしれない。

心の状態によって、見えるものがまったく変わってしまうって、今更ながらではあるが、面白いものだと思う。映画もまた同様で、その時々で受けとめ方が異なったりする。但し『バベットの晩餐会』は、私にとって初めてだ。観たいと思いながらも、結局はDVDも借りずにいたので、今回丁度良い機会と出かけた。パソコンの小さな画面よりは、やはりスクリーンが良い。

映画は、バベット役の女優さんが凄く良かった。私は、意志的な眼をした人が好きだ。地の果てのような辺鄙な海辺の村にバベットが現れるまでのストーリーは、正直そんなものだろうなという感じで、何ということもなく流れてゆく。宝くじに当たったバベットが、身を寄せている家の姉妹の父である故牧師の生誕100年を祝う晩餐会に、その全てを注ぎ込むところからが圧巻だ。

皆が帰った後で、1万フラン全てをこの日のために使い切ったと知って驚く姉妹に、食事で人を幸せにすることが、自分の喜びと言うバベット。年老いて、集会のたび気難しく攻撃的になりつつあった村人たちも、この晩餐会が果てる頃にはそれぞれの善さを取り戻し、皆幸福そうに家路につく。

フランス料理どころか、牧師館の老姉妹同様、多分、ほとんど毎日スープだけの質素な暮らしの人々にとってはまさに至福の時であっただろう。若き日姉娘に恋し、今は将軍となったローレンスだけが、この料理は、かつてパリで名を馳せた女性料理長の手によるものと見抜く。

題名通り、晩餐会がこの映画のすべてのような気がする。ここから何を読み解くか、ここで何を感じるかは、観る人ごとだ。それにしても、見終えてからずしりと心に残る不思議な映画であった。

私には、もう少し深く知りたい部分もあって、原作は誰かと調べたら、アイザック・ディーネセンIsak Dienesen(本名カレン・ブリクセン)だ。かつて、『愛と哀しみの果て』という映画を見て、その原作となった『アフリカの日々』を読んだことがあるが、同じ作者であった。

ウイキペディアによると、デンマークを代表するな小説家(1885年生まれ)ということだ。写真で見ると、上品で綺麗、おしゃれでとても華やかな感じがする。アンデルセン以外あまり縁がなかったデンマークだが、この作家の本をぜひ読んでみたいと興味が増す。『アフリカの日々』も、読み直しが必要だ。映画も本も絵画も、場合によっては風景も、時を隔てて見返すと、最初気づかなかったことが、不意に現れたりする。

映画の余韻か、目ばかりか心も若葉色に満たされて、曇り空ながら心地よい日であった。