照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

心にズシンとくる映画ー『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』

『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』は、中心にあるテーマ故に、心にズシンとくる映画だ。監督へのインタビューを読むと、ホロコーストの映画ではないということだが、かなり重要なポイントとなっている。「受け継ぐ者たちへ」というタイトルに、それが表れている。

 

パリ郊外の、貧困層が多く暮らす地域にある公立高校が舞台だ。さながら問題児ばかりの吹き溜まりのようなクラスの担任となったゲゲン先生は、歴史と地理に美術史を教える熱心な教師だ。ある時、アウシュビッツでの子どもと若者をテーマにした歴史コンクールに参加しようと提案する。

 

最初は反発する生徒たちも、ゲゲン先生と司書の手助けを受け、資料集めや本の読み込みに取り組むようになる。殊に、ショア記念館(ショアはフランス語でホロコースト)を訪れてからは、それぞれの心に小さな変化が生まれる。そして、アウシュビッツの生存者の方から体験を聞いて以後、その真剣度は一段と高まる。

 

ゲゲン先生に腕を取られ、杖をついた老人がゆっくりと教室へ入ってきた時、生徒たちは自発的に椅子から立ち上がって迎える。教育学者林竹二さんの、「学んだことのたった一つの証は変わること」を、彷彿とさせるなかなか感動的な場面だ。何しろ以前は、礼儀なんて俺たちには関係ねえとばかりに、傍若無人ぶりを発揮する生徒たちだったのだから。

 

アウシュビッツへ送られた当時15歳だった自分は、16歳以上と偽って列車を降りた。そのまま列車に乗せられていった姉とは、その後会うことはなかったと、静かに語り始める老人。話を聞きながら涙を流す生徒たち。これを機に生徒たちは、問題をより深く掘り下げて考えられるようになり、チームワークもよくなる。(*実際の生存者の方が出演されている)

 

コンクールの結果は映画をご覧頂くとして、これは実話に基づいているそうだ。当初、校長をはじめ教師たちからも、落ちこぼれとして非難されることの多いクラスであったが、何と27名中20名が、成績優秀で高校を卒業したという。

 

夢や希望など絵空事としか思えない地域で育った彼らも、きっかけさえあれば変われる。一年生の時ゲゲン先生のような指導者に巡り会ったのは、彼等にとってまったく幸いであった。

 

そして、ゲゲン先生のモデルとなった方は、まだその高校で教えているとのことだ。また、当時そのクラスの生徒で、監督と一緒に今回脚本を担当した人が、本人役で映画に出演している。ちなみに、この話が映画になったいきさつも、まさに奇跡みたいだ。

 

それにしても、収容所で子どもが生きのびるのはまったく奇跡だったんだと、改めて『A Lucky Child たった一人でアウシュビッツを生き抜いた少年』のトミー(10歳)の強運を思う。その本についてはこちら

http://teruhanomori.hatenablog.com/entry/2015/01/06/041224

 

いろいろな意味を含んでズシリとくるこの重みを、しばらくは抱え続けてゆくしかない。考えなければならないことが本当に多すぎる。それに上乗せするように、バスの中での、白人中年女性のさりげない人種差別的態度が胸に刺さる。しかし、これが現状なんだと思うと、更にやるせなくなる。