照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

ルクミって?それはギリシャのお菓子ー『雨天炎天』には凄いルクミあり

パリ在住の梨の木さんという方のブログに、ギリシャ土産に頂いた「ルクミloukoumi」というかなり甘いお菓子の事が書いってあった。そのちょっと前に、そのお菓子について本で知ったばかりの私は、おおここにもルクミかとそのタイミングに喜ぶ。

ブログでは、"一口かじると砂糖と蜂蜜のこってりした甘さ、ナッツの充実感が脳天を直撃、歯が溶けそうな甘さ"とある。

『雨天炎天』(村上春樹新潮文庫・H3年)のギリシャ編に出てくる「ルクミ」評も、
"どこの修道院に行っても、このルクミという菓子は必ず出てくるわけだが、これはもう歯が浮いて顎がむずかゆくなるくらいに甘い。もちろん手づくりなので、各修道院によって味はちょっとずつ違うが、ひどく甘いということだけは共通している。"(P・30)だ。

最初は一口で閉口するも、

"あとになって道がハードになり、体がだんだん疲労してくると、早く次の修道院に着いてルクミを食べたいとまで思うようになるわけだが、・・・"(P・30)と待ち遠しくさえなる。

その甘さを想像しただけで、ちょっと手が出そうにないが、"疲労していればいるほど美味しく感じられる"お菓子に僅かに興味がわく。どんなお菓子かと調べてみると、砂糖にコーンスターチなどの澱粉とナッツを加えて作るトルコ発祥のお菓子で、トルコではロクムlokumと呼ばれているそうだ。食感は、ゼリーやゆべし、あるいは求肥に近いという。

ところで『雨天炎天』は、アトスというギリシャ正教の聖地を訪れた時の話だ。平地がほとんどない山ばかりの地を、自分の足だけを頼りに修道院を巡るかなりハードな旅だ。

修行の場であるため女人禁制だ。また、一般人が滞在できるのは3泊4日で、許可証を必要とする。事務所で最初にお金を支払うだけで、後は行く先々の修道院で、ベッドと食事が提供される。食事についてはもちろん、修道院及びお世話担当の僧、それぞれの違いについての記述がなかなか興味深い。

最終日、待つ場所を間違え船には乗れず、結局別の所へ向かう。きつい道の途中、やむなく"僻地の飯場小屋"のような宿坊に泊まるのだが、ここでの食事が凄まじい。

"夕食がひどかった。まずパン。これが無茶苦茶な代物である。"(P・87)

と、一面に青黴がはえた石みたいに固いパンを、水道水でふやけさせて供される。それと、ドボドボと沢山の酢を入れた無茶苦茶な味の豆スープに、壁土のような顔が曲がるほどしょっぱいチーズだ。

翌日の朝食も夕食と同じだが、

"今回はおまけに黴のはえたかちかちのルクミまでついている。・・・でも腹が減っているので、涙を飲んでもくもくと食べる。"(P・87)
どれほど体が疲れきっていようと、このルクミだけは有り難く感じられなかっただろうなと同情する。

ところで、パンをふやかす場面に、ルイス・ブニュエル監督『糧なき土地』を思い出した。給食で出された固いパンを、学校からの帰り道、子どもたちが小さな流れの川に浸して食べるシーンだ。生きるというのは、まったく厳しい。しかし、もしこの子どもたちの給食にどんな状態であれ、甘いルクミのひとかけらが添えられたなら、さぞ顔がほころんだのではないだろうか。でも、舞台がスペインだから、まずルクミはないな。残念。

甘いお菓子のつもりがしょっぱくなってしまった。ならば、ぜひともルクミを食べて口直しするしかないか。