照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

ダイナミックさが感じられる本ー『国境のない生き方 私をつくった本と旅』

散歩のついでに図書館に寄って、『国境のない生き方 私をつくった本と旅』(ヤマザキマリ小学館新書・2015年)を手に取ってパラパラめくっていたら、開高健とか島尾敏雄という文字が目に入った。

安部公房をはじめ影響を受けたという他の作家についての記述がずっと多いのだが、『夏の闇』や『死の棘』にどのような感想を持ったのか少し気になって、つい借りてしまった。

ページを開き、「はじめに」を読み、

"人間というのは、他の多くの動物と違って、本能と自然がもたらす知恵だけでは、社会の中で生きていくことはできません。後天的に身につける教養が我々にとって必須の栄養素となるわけですが、しかしその内容は、人によって、それぞれの個性や特性によって、異なってきます。

私の場合は、早いうちから母が、「大自然と旅、そして書物が、娘を育むための大事な要素だ」と気がつきました。"(P・3)

教養の定義に、ちょっとガーンという感じであった。正直なところ、ヤマザキマリさんの本はもういいかなと思っていたのだが、彼女の成り立ちのような部分、とりわけ本との関わり方にがぜん興味がそそられた。彼女の本の捉え方、分析の仕方には結構惹かれて、未読はもちろん読んだことのある本も、もう一度手に取りたくなってくる。

読み進めながら、"大自然と旅、そして書物"に育まれた彼女の逞しさに、米原万里さんが思い出された。残念ながら10年前に亡くなられたが、私はこの方のお書きになる、ユーモラスでいて芯のある文章がとても好きであった。そこからは、カラッとしたダイナミックさが感じられたが、それがヤマザキマリさんにも通ずるところだ。

米原万里さんの場合、9歳から5年間チェコで暮らした経験が、彼女の人との関わり方や物の見方の土台にあるように思う。ヤマザキマリさんも、14歳で初めて1カ月間ヨーロッパひとり旅という経験が、その後に影響しているようだ。お二人とも生い立ちも経歴もまったく違うが、大人の入り口ともいえる時期に、日本と異質な世界に身を置いたのは大きい。

たとえ1カ月とはいえ、32年前に少女がたった一人で初海外旅行というのは勇気がいる。自分の代理にせよ、送り出した母親も凄い。

ヤマザキさんは、
"死に物狂いで窮地を切り抜けようとすれば、14歳でも立派に自分の哲学を持てるのです。・・・「自分で何とかするしかない」と思えば、ひとりの人間としていろんな判断ができる。意外に頼りがいのある自分を発見して、それが自信になっていく。"(P・62)

そして、それは海外に行きさえすれば誰にでも当てはまるという短絡的なことではないともおっしゃる。それを掴むためには、"なけなしの自分を頼みにして、最初の一歩を踏み出すこと。"(P・62)という。それが、結局は17歳でのイタリア留学につながる。

ヤマザキマリさんのこれまでを形作った半生記だが、12章それぞれに深く感じるところがあって、読み終えた頃には、身体中に力が漲る思いがする。