照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

"追求していく気持ちの強さ、それこそが才能"ー『永遠のディーバ』より

君たちに明日はない』のシリーズでは、この4がとてもいい。どの章もそれぞれに味わい深いのだが、タイトルにもなっている「永遠のディーバ」が特に良い。

このシリーズは全て、リストラを断行せざるを得なくなった企業で候補に上った従業員と、それを請け負った会社の面接官村上真介を軸に話が進む。ほとんどがリストラ対象者への説得だが、稀には、留める方向へ話を持ってゆくこともある。いずれにせよ、相手をどのように頷かせるか、個々の突破口を見つけて攻めてゆく。その過程がとても興味深くて、つい引き込まれてしまう。

この回に登場するのは、ある会社の管弦打事業部門の46才の男性で、学生時代にバンドをやっており、この会社の主催する音楽コンクールで準優勝の経験もあるという設定だ。

退職するかどうか悩んだ時、昔よく通っていたバーに足を運ぶ。そこにあったギターをつま弾いたのをきっかけに、自分より年若いマスターの意外な話を聞くことになる。

かつて、15歳以下の日本代表チームの要だった彼は、高3の時、練習試合で惨敗する。相手校の高1の選手に、"持って生まれた才能が、その技術が圧倒的に違う"と感じて、サッカーを止める。

以来、サッカーを自分の前からシャットアウトしたのだが、友人の家のテレビで、あの時の選手がプレーする姿を偶然目にしてしまう。35歳になった彼の、ロスタイムに入っても懸命に走り続けている姿に、才能とは何かということに思い至る。

"「そう。サッカーも最後には、単なる技術じゃない。結局は、気持ちなんです。次々と見せつけられる実力の差やセンスの壁に、それでも挫けずにその行為をやり続けるに値する、自分の中の必然です。それがあるかどうか。その気持ちだけが、その必然に支えられた情熱こそが、絶え間なく技術を支え、センスを磨き、実力を蓄えてくれる。また、それらの裏付けがあるからこそ、さらに情熱を持って長くやり続けられる。それが、才能だって」(P・218)

この言葉に刺激された男性は、子会社であるレコード会社の社長に直談判し、転籍を決めてしまう。彼の企画の第一弾は、かつてのコンテストで、優勝した女性のリバイバルプランだ。
"自分はどうありたいのか。何を表したいのか。何を、どう伝えたいのか。それを真摯に見極め、追求していく気持ちの強さ。それこそが才能なのだ。また、その気持ちが強ければ強いほど、培ってきたテクニックも凄みを増す。"(『永遠のディーバ 俺たちに明日はない4』垣根涼介新潮文庫・P・264)

と、彼自身のリバイバルも予感させる終わり方に、清々しさが残る。

そして、自分には才能がないと諦めるのではなく、どうしたらうまくいくか、"追求していく気持ちの強さ"こそが、我が道を切り開いてゆく唯一の力になるのだなと、しみじみ考えさせられた。

どの分野でも、確かに上には上が次々と現れる。それでもくさったりせずに、"自分の中の必然に支えられた情熱"を持ってやり続けることが大事なのだ。そして戦う相手は、時には自分でもある。どうせと嘆くよりは、前に進む道を探りたい。