照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

邪馬台国はどこであったかー絹織物に注目した説を初めて知ってなるほどと納得

邪馬台国はどこであったか、九州と近畿の他に、東遷説があることを、『古代史の窓』(森浩一著・新潮文庫・平成10年)を読んで初めて知った。東遷説とは、最初は九州にあったが、やがて近畿に移ってきたという説で、著者の森浩一さんはこの説を推している。

その手がかりとなるのが、魏志倭人伝に書かれている献上品の絹織物に関しての、"養蚕をおこない、糸をつむぎ、細かな・・・"(P・88)とある記述だ。そこに、『絹の東伝』(布目順郎著・小学館)という古代織物の研究者の本を参照されて、

"弥生時代にかぎると、絹の出土しているのは福岡、佐賀、長崎の三県に集中し、前方後円墳の時代、つまり四世紀とそれ以降になると奈良や京都にも出土しはじめる事実を東伝と表現された。布目氏の結論はいうまでもなかろう。倭人伝の絹の記事に対応できるのは、北部九州であり・・・"(P・90)

には、なるほどと思わせる説得力がある。この部分だけでなく、この本を読んでいると、解明されていない事は、性急に自らの主張に沿うように結びつけるのではなく、慎重にさまざまな方面からじっくり検討する重要性を、改めて教えられる。

それにしても、絹織物がポイントとは。確かに、"ヤマタイコク奈良説をとなえる人が知らぬ顔をしている問題がある。絹の東伝である。"(P・89)と著者が指摘するように、絹を素通りした説だけを読んでいれば、私などが知ることはない。

これは、古代史ばかりか、今起こっている物事を知るうえでも大事な視点だ。自分の解釈に合わせるために、あえてある部分を無視するなどは、案外誰もが陥りやすいところだ。

今回は、古代史関連の本を4冊ほど借りてきたが、最初からいい本に出合ったと嬉しくなる。

著者があとがきで、

"本の題は短い方がよい。というわけで『古代史の窓』となった。だが考古学の私が古代史への誘いを書けるわけがない。だから縮めず私の真意でいうと「考古学から窓の向こうの古代史を垣間見る」といったところだ。"(P・242)

と謙遜されているが、読む者こそ、懇切丁寧な説明付きで、古代を垣間見させて頂いているという感じだ。書かれたのは30年近く前だが、ともかく読み応えがある良い本だ。