照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

ホテルのスタッフもカフェのおじさんも顔ぶれが変わらないという安心感

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ジャカランダの花 エヴォラにて

 

エヴォラで2泊した後は、午前のバスでリスボンへ向かう。延べ日数にすれば短い滞在でしかないのに、年毎の訪問となったせいか、この町にすっかり親しみがわいて、バスに乗り込む時は、故郷を後にする時のようなある種の寂しさすら覚えた。

 

宿泊したのは、毎回同じホテル・リヴィエラ。ジラルド広場からカテドラルに向かう、10月5日通りにあるこじんまりしたホテルだ。午前中カウンターの奥に座ってチェックアウトを担当しているのは、瘦せぎすでメガネを掛けた初老のおじさん。尖った顎が、サミー・デイヴィスJr.を思わせる。

 

今回も早く到着してしまった私に、12時過ぎなら部屋が用意できると済まなそうに言って荷物を預かってくれた。そりゃそうだろうな、朝食時間がようやく終了して、これから部屋の掃除に取り掛かるのだからと、私も無論納得。

 

チェックイン担当は、こちらもメガネを掛けた小太りの中年のおじさん。既にチェックイン済みの私を、部屋まで案内してくれる。荷物は先に運ばれて、部屋で私を待っていた。おじさんから型通りの説明を受けながら、昨年11月に訪れた時も、温度調節について、リモコンを操作しつつ説明してくれたなと思い出す。

 

メイドさんたちの顔ぶれも変わらない。3人で、朝食の準備から、シーツ類の洗濯に室内清掃まで全て切り盛りしているようだ。皆さん、しっかり者母さんといった感じで、不足している物は無いかとチェックしながら、キビキビと働いている。合間に、自分用のコーヒーをカップに入れてゆく。やっと一息といったところか。

 

食堂でテーブルに着く面々も、皆さん連泊されているようで、前日の朝とほぼ同じメンバーだ。どなたも、ゆったりと寛ぎながらたっぷり召し上がっている。自分のことはさておき、観光する場所はさほど多くなくても、1泊で慌ただしく通り過ぎるようなことはせずに、エヴォラに連泊するんだと軽く驚く。

 

これも、我彼との旅に対する考え方の違いの一つかなと思う。とはいえ、西洋の皆さんの、個人旅はもとよりツアーに関しても、考察するほどには詳しくない。

 

でも、メリダ(スペイン)でも感じたことだけど、観光だけにあくせずせず、訪れた地でのんびり過ごす雰囲気がかなり濃厚に伝わってくる。まさか、メリダを訪れたメインの目的がホテル(パラドール メリダ)のプールというわけではないと思うが、老夫婦も若人たちも、それぞれが楽しげにバシャバシャやっていた。気温が32、3度ともなれば、水遊びにもってこいだ。

 

また、観光するにしても、私が歩き回るのをパスしたローマ競技場などでも、日差しの強い中、土の塊の間をゆっくり歩いている。〈本家ローマの大競技場のように、その形を多少なりとも留めているならまだしも、何が面白くて炎天下にこのだだっ広い野っ原を〉と、正直私には、その気持ちがよく分からなかった。

 

チケット売り場の横から中に入って、出土品などの展示物を見てから上の階へ行くと、昔の戦車競走を再現した簡単なビデオ上映がある。その先から外に出られるようになっていて、競技場全体が見渡せる。

 

その広さを実感するには、ここから目測するだけは不十分なのか?とも思ったが、それは実際大きさお世話だ。人には人の楽しみ方がある。要は、何もないから見る価値無しと切り捨てるのではなく、興味の赴くままにのんびり掬い上げてゆく旅をしている人が多くいるように見受けられたということだ。だから小さな町でも、駆け足せずに連泊するのかもしれない。

 

話が、ホテルのスタッフから西洋の方の旅スタイルへとだいぶ外れてしまった。が、ともあれ、ホテルの皆さんは、こちらのことなどまったく意識の端にすらないだろうが、訪れる度、見慣れたメンバーがいるというのは何となく安心感がある。

 

エヴォラではホテルだけでなく、初めて訪れた時から、同じカフェに毎日のように行っていた。そこは、メインの通りから僅か横に入った場所にあるのだが、客層はほぼ地元の人で占められていた。

 

一杯のコーヒーを前に丹念に新聞を読む人、おしゃべりに余念がないカップルに家族連れ、仕事の合間の一休みといった作業着姿の人まで、皆さん結構ゆっくりと過ごしているので、私も足休めのつもりががつい長居してしまう。テーブルも椅子も簡素極まりなく、時にはハエだって飛んでくるのだが、広くてぶっきらぼうな店内は案外居心地が良い。

 

カウンターの中で主となって立働くのは、こちらも当初から見慣れたおじさんだ。特に愛想が良いというわけではないが、感じが悪いわけでもなく、ごく普通のおじさんだ。私が、トシュタ・ミシュタ(ホットサンド)を半分しか食べられずに残したら、持ち帰りにしようかと聞いてくれたのでお願いした。

 

6、7時間経つとうまい具合にお腹が空き、冷えたホットサンドではどうかなと思ったが、口にするとどうってことなくちゃんとお腹に収まった。残した半分は、薄切りパン2枚にチーズとハムが挟んであるだけだが、空腹とはまったく大したもので、美味しく頂いた。

 

エヴォラでは、このように、こちらだけが数人を知っているに過ぎないのだが、それでも誰一人知る人がいない町に比べれば、ずっと親しみが増す。そんなわけで、冒頭に戻れば、多分もう来ることがないだろうなと、ちょっぴり感傷的になった次第。次はいよいよリスボン