照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

やっぱりブリューゲルの絵はいいな『ブリューゲル探訪 民衆文化のエネルギー』

ブリューゲルかと書架から取り出した本(『ブリューゲル探訪 民衆文化のエネルギー』森洋子著・未來社・2008年)の表紙を見て驚いた。

 

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本の表紙    (『農民の婚礼』部分)

 

中央には、ほんのり頬を染めた花嫁が幸せそうな笑みを浮かべて座っているではないか。あの時、このくらい花嫁の表情がはっきり見える画集に出会えていれば良かったのにという思いが過ぎる。

 

かつてライティングの授業で、この絵『農民の婚礼』のどこに花婿がいるかをテーマに、小論文を書くという課題が与えられた。参考にしようと小さな画集も買って、絵の中の全員を眺めるも、花嫁の表情が今ひとつよく分からない。花婿探しがメインといっても、やはり花嫁も気になる。

 

しかし、(婚礼の主役なんだからもっと大きく描いてくれてもよかったんじゃないのブリューゲルさん)とつぶやきたくなるほど、一応花嫁も入れておきましたくらいの小ささだ。もっともブリューゲルさんからは、(婚礼といっても、自分の時代の風俗としての関心があるだけで、花嫁個人にさほど思い入れはないものでね)と、反論されるかもしれない。


ところで課題の方は、ブリューゲル研究者たちの著書を探して読み、それに毎週頂くプリントも参照、画集から受けた印象等も合わせ、なんとか自分なりの結論を導き出し、期日までに提出することができた。だがその授業の後も、花嫁がどのように描かれているのかがずっと気になっていた。そして、結局ウィーンの美術史美術館へ見に行くことにしたのであった。


やはり行っただけのことはあった。『農民の婚礼』に『雪中の狩人』と気になっていた絵はもとより、他にも数々のブリューゲル作品を目にすると、やはり縮小サイズの画集からでは窺い知れないことが多々あった。そして何よりも、絵から受ける印象がまるで異なることに軽いショックを覚え、感嘆しつつ長いこと見入っていた。これがただ一度の機会になるだろうとしっかり見たつもりでいたが、実はそうではなかった。

 

今回この本で、

"中景で農家の煙突の炎に大騒ぎで消火する村人の姿はあまりに微細なタッチで、数回目に気がつく。"(P・290)

 

と、『雪中の狩人』での細かな描写について、(そうなんだ)と、すぐにでもその部分を確かめに行きたい気分にすらなってくる。研究者でなくとも、ブリューゲルの絵は、細部まで丁寧に眺めてこそ、その良さをより深く味わえるのだと思う。

 

ちなみに著者は、

"人間の本質を衝いたブリューゲルの作品には、われわれが加齢とともに、その意味をより深く理解できる、奥深い、不思議な魅力がある。
たとえば《ネーデルランドの諺》には、百近い諺によって、人間の愚行、弱点、失敗、虚偽に対する風刺や教訓、また民衆の知恵などが表現されている。"(P・325)

とおっしゃっている。

 

やっぱりブリューゲルの絵はいいなと、本を読み終えた今あらためて魅かれる。そして、ブリューゲルに限らず絵は、一度見たからといってよしとせず、何度でも機会を捉えては見に行きたい思いが強まる。ましてブリューゲルは、"加齢とともに・・・"ということなので、きっと見るごとに自分なりの新たな発見があって、更に楽しめるだろう。