照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

旅の魔法はいっときーたちまち日常へ

今回のポルトガルの旅で私は、文字通りまったく素のままでいられた。日本にいる時は、頬の辺りだけに塗るファンデーションさえもつけず、眉だけを整えていた。もともと化粧はそれだけで口紅もつけない。旅するうちに、頬にやや見られるシミも、ファンデーションで隠したいと思わなくなった。

顔には、一年を通して、長年ヘチマ化粧水のみで、今回持参したのも、それを小分けにしたものだけだ。ヨーロッパは、日本に比べて乾燥しているというが、これまでの旅はもちろん今回も、特に困ることもなかった。

若くないからそんなこと言えるのだろうと思われるかもしれないが、そうではない。日本にいる時は、会社へ行く時ばかりか、散歩へ行く時だって、途中でカフェに寄ることをも考慮して、ファンデーションは塗っている。休みの日など、知り合いにばったり合う確率なんてほぼゼロだ。たとえ見知らぬ人とて、自分の身なりを含め顔だって気になる。幾つになっても、多少の見栄は残っている。

だがポルトガルでは、自分を良く見せたいなどという気持ちは消えてしまった。自分は自分以上でも以下でもないとは、日頃から、自分でお題目のように言っていることだが、ややもすると、ついカッコつけてしまいがちだ。でも今回の旅では、一切合切の気取りがすっ飛んでしまった。

自分は自分という思いだけが残った。人に良く思われたいはもとより、誰かと比較する必要なんてさらさらなく、ありのままでいいと改めて認識した。これは、気持ちがかなり解放されて、とても楽だ。一方で、よほど気をつけないと、自分に構わない人にもなりかねない。その辺は、唯一自分に対して、こうありたい自分を常に意識しておく必要がある。

だがそんな思いも、旅から日常の生活に戻った途端、弱くなってしまった。ほっぺに塗った薄いファンデーションでも、私には、自分を守る鎧の如く感じられる。何に構えてしまうのかを明確には答えられないが、敢えて言うならば、自分という人間の小ささ故かなと思う。

仮面をつける世界はやはり息苦しい。でも、きっと旅の間は、魔法にかかっていたに違いない。そんなことを考えるこの頃だ。