照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

散歩の足を伸ばせばーまるで浦島太郎のごとく

数年前になるが、散歩の足を伸ばし、二十歳前後の頃住んでいた辺りまで行ってみたことがある。だが、まるで変わってしまっていて、住んでいた場所さえおぼつかなかった。

駅前を僅かに過ぎ、ややきつめの坂を登りきった角にあるアパートの2階に住んでいたのだが、それが皆目見当がつかない。当時、道路を挟んだ反対側には、名脇役として活躍された女優さんのお宅があった。そのお庭が廊下の窓からよく見えたので、無論お断り無しにだが、借景としてしばしば目を楽しませて頂いた。

料理の腕と共に文章にも優れていらっしゃる方と知ったのは後年のことで、正直なところ、当時、女優さん個人への興味はまるでなかった。車から乗り降りする際に、時折門の前でお見かけしたことはある。だが、それだけのことであった。

何冊ものエッセイを読んで初めて、考え方や暮らし方に惹かれ、せっかく近くにいたのだから、もう少し関心を持っていれば良かったとやや残念な気もした。

思い出はともあれ、住んでいた辺りはよく散歩していたので、もしそこが、マンションか建売りに変わっていても、地形はよく知っているつもりであった。だが、数十年も経てば、自分の記憶など案外あやふやなものと改めて感じる。もう少し調べてから、今やおしゃれな街として名があがるようになった、懐かしい場所を、再度歩いてみようかなと思い始めている。