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照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

ジグソーパズルのような面白さー『未亡人の一年』

『未亡人の一年』[上]・[下](ジョン・アーヴィング著・都甲幸治・中川千帆訳・新潮社・2000年)は、とても読後感の良い本だ。『村上ラヂオ』に、この本の一つのテーマが寂寥感とあったので、その意味するところに興味が湧いて借りてきた。上下巻の2冊を書架から取り出した途端、そのずしりとした重さに、止めちゃおうかなと一瞬迷った。

とりあえず読んでみようと、自宅に戻ってからページを捲ると、ところどころに散りばめられたユーモラスな表現に引っ張られて、予想以上にどんどん進む。そのうち物語の展開が気になり、ますますのめり込んでしまった。細部まで結構丁寧に読んだつもりだが、案外早く読み終えてしまった。

ルースという後に作家となる女の子の4歳から41歳までを核として、その時々で彼女を取り巻く人々の話へと伸び、それらが複雑に絡まって進展してゆく。あらすじは簡単には言い表せないのだが、最終章に近づくにつれ、ルースの幸福感がじんわりと伝わってくる。出だしから性にまつわる話ばかりで辟易した部分も多いが、上手い作家だなと思った。

4歳のルースを置いて家を出る母のマリアンについての描写は少ないものの、とても魅力的な女性だ。37年目にルースに会った時のセリフ、
"「泣かないで、ルース」マリアンはたった一人の娘に言った。「ただのエディとママじゃない」"
ここで話は終わる。

このセリフはほとんど物語の始めで、作家の夫が夏休みの間だけ助手として雇った少年エディとマリアンがベッドにいた時、部屋に入ってきて叫ぶ4歳のルースに言った言葉と同じだ。
"「叫ばないで、ルース。ただのエディとママじゃない。ベッドにもどりなさい」"

そして、『未亡人の一年』というタイトルに、この物語のすべてが詰まっている。当初は、一体何のことかと思ったが、読み終えてみると、何と秀逸なタイトルだろうに変わった。

母がなぜ自分を置いて出て行ったか、頭ではなく、心で理解できたルースは、ようやく自分の望む人生をも掴むことができた。最後の1ピースが見つかって、「ルース」というジグソーパズルが完成したようなエンディング。あれっ、こんな風に終わるんだと、その爽やかというか甘い感じが意外であった。

ところで、時々差し挟まれる創作及び作家論も面白い。とりわけ「耐えがたいインテリ連中」が鼻につくようで、何回かでてくる。"「耐えがたいインテリ連中」は、突然関係のない話をするので有名だ。"と、いきなり話が飛んだ場面での使い方に笑ってしまった。ぜひどうぞ。