照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

音楽の持つ不思議な力 杉本明子先生

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12月の朝顔
 
ボイストレーニングの日、玄関を開けると、ピンクの、サイズも可愛い運動靴が目に入った。知らない者がいきなり現れて緊張させてはと思い、スタジオへは入らずにドアの外で待つ事にした。ピアノやドラムの音に交じって、「トーットロ、トーットロ、隣のトトロ・・・」と、楽しそうに歌う先生の声が聞こえてくる。
 
程なく、小さなコートを手にした男性が玄関のドアを開けて入ってきた。お迎えのお父さんのようだ。挨拶すると、お父さんはスタジオに入って行った。すると間も無く、音楽が止んでKちゃんが弾む足取りで出てきた。私に気付いた先生は、中に入って待っていてくれて良かったんですよと仰る。
 
4歳のKちゃんは、障害を持っている。これまで、お祭りなどで大きな音を聞く度、顔を覆ってしまっていたという。繊細な心は、見知らぬ音への警戒心を抱いたのだろう。杉本明子先生のところ来た当初も、顔を手で覆って決して周りを見ようとしなかったという。
 
先生はKちゃんの障害には捉われず、音楽を好きになって欲しいと考え、楽しい雰囲気を出すようにあれこれ試みられたという。スタジオでは一時間何の反応も見せなかったKちゃんだが、帰宅した途端、お母さんに喜びの感情を現し続けていたそうだ。Kちゃんの元気みなぎる様子は、お母さんをも力づけた。それ以来、定期的にレッスンに通うようになったという。ドアを開けて出て来た時のKちゃんを見れば、音楽を楽しんでいた感じは、充分こちらにも伝わってくる。
 
Kちゃんばかりか、音がどれほど人の心の深い部分へ入っていったか、障害を持つ方のさまざまな事例をお聞きした。頼まれて、近くの杏林大学病院の小児科病棟で定期的にコンサートをした時の話、耳が聴こえない方々を、フルオーケストラへお招きした時の話、老人施設でのコンサートの話などなど、それぞれに心打たれる。ある若いお嬢さんが不慮の事故で植物状態になられたが、音楽を聞く事で、意思表示ができるまでに回復されたという話にはとりわけ心が動かされた。医学的には説明不可能な現象に、聞かせる側の先生の力も大きく作用しているのではないかと思った。
 
先生のピアノレッスンは、音楽を好きになってもらいたいという思いから、先ず楽譜を読む事を、徹底的に教える。いろいろな楽譜が読めるようになると、次第に自分の好みが出て来て、クラッシック以外にもジャズを始めたりと音楽が広がってゆくとの事だ。現に私の次の生徒さんは、ピアノとドラムを習っているという。小学生4年生だというお嬢さんは、喜々としてビートルズを練習していた。
 
先生には、人の心へ音楽の楽しさを伝える力と、同時に引き出す力がある。杉本先生からピアノレッスンを受けたなら、音楽をぐっと身近に楽しいものと感じられそうだ。発掘され損ねた歌姫は、小さな時にこのような先生に出会わなかった事を残念に思った。だが、今であっても間にあって良かったと安堵する。このような素晴らしい先生を、手遅れと諦めていらっしゃるたくさんの方々へ教えてあげたい。音楽を始めるのに遅すぎる事はない。ぜひご一緒しましょう。

*杉本明子先生は、Star's  Musicを調布・深大寺で主宰されてます。ここでは、発声からピアノ、さまざまな楽器まで幅広く教えています。