照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

元気な高齢者 その1

「元日から高齢者10人のオムツを換えている・・・認知症の人が増えている気がする」という介護施設で働く方のツイートに、やるせない思いがした。厚生労働省の研究班の推計では、2025年に65歳以上の5人に1人が認知症になる可能性があるという。ちなみに2012年は7人に1人だ。確実に増えてゆくだろう。だが、介護施設では今でさえ人手が足らないのが現状だ。自分の世話を他者に頼れない状況が、目に見えるようだ。それなら、最後まで自分の始末は自分でできるような暮らし方を探るしかない。ついては、自分の周辺の元気な高齢者について観察してみた。

私が入社した際、すでに60代半ばだったTさんは、嘱託として週に数回短時間で勤務していた。それから1年後に引退されたが、私とは部署も違ったためさほど接点はなかった。だが長い付き合いの人もいたので、辞めてからもしばしば事務所へ顔を見せてくれた。現在の会社へ移行してからも、年に数回は訪ねてくれる。その度に、溌剌として以前と全く変わらない姿に感嘆させられる。話し方や姿勢から判断すると、20歳は若く見える。黒く染めたショートカットの髪にシンプルな装いのTさんは、美人で頭の回転も速い。

Tさんは会社全盛の頃、バレーボール部に所属して活躍されたという話だ。部を引退した後は、会社で経理の仕事をしつつ、ママさんバレーの指導をしていた。驚く事に、今年90歳になられるが、今尚現役で指導を続けている。数年前は、シニアの大会にも最高齢として参加、選手宣誓をしたという。

独身のTさんは、都内に所有するマンションに1人で住んでいる。可愛がっていた姪御さんは、10年位前に亡くなられたそうだ。それ以後ますます、誰かに頼らず生きるという覚悟が、Tさんから伝わってくる。マンションのお隣の方は、何かとTさんを気遣ってくれるそうだ。会社の同僚も時々、様子確認の電話を入れている。お人柄だろう。Tさん自身、足腰が弱くなって遠出できない年下の元同僚や友人たちを気遣い、時折様子見に訪ねていっているという。

事務所でお会いする限り、Tさんが愚痴を言うのを聞いた事がない。いつもバレー指導時の楽しい話で、こちらを笑わせてくれる。お酒も好きで、晩酌するという。今でこそ、女性の飲酒人口も増えたが、Tさんの年齢では珍しい。こだわりはなく、お酒なら何でも好きとの事だ。飲み会も好きで、必ず参加するそうだ。「行かないと、死んじゃったかとバレーの仲間が心配するからね」と笑う。多分、陽気なTさんが加わると、座が楽しくなるのだろう。

ここ数年は、風邪で寝込む事もあるようだ。腕が痛い時もあったようだが、サーブを打ちたい一心で、接骨院で教わったリハビリを続けて治したという。足腰が悪くなればバレーどころではないと、スクワットなどもして筋力維持に勤しんでいるそうだ。通常は年齢を増すと共に、身体を動かすのが億劫になってくるものだが、大した人だと感心するばかりだ。運動を続けている事で、気力体力を維持しているのかなと思う。自分へ甘えず、スクッと立つTさんは、私の目標だ。
元気な高齢者 その2へつづく