照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

俄か勉強だけでは限界がある〜というわけでただいまスペイン語学習に奮闘中

マドリッドでのことだ。朝9時過ぎ、宿を出て地下鉄のアントン・マルティン駅に向かう途中、乗る前に朝食をと思い立って、近くのバルに寄ってみた。角にある店は、間口は狭いが奥行きがある。入り口近くのショーケースには、お決まりのスペイン風クロワッサンとやや太めのチュロスがあるだけだ。

 

奥の方にもショーケースが見えたので、そのまま進んで行くと、(アララッ、変な人入って来ちゃったよ)と思ったかどうかは定かでないが、お店の方が困惑したような顔で、こちらを見ている。

 

宿は、地下鉄のアトーチャ駅との中間に位置していたのでこちらへ来たのだが、その困ったような顔に、言葉の解らない観光客はこの辺りまでは来ないのかと思うほどだ。それも、地方ならいざ知らず大都会マドリッドで、目の前のアトーチャ通りをそのまま進むと、旧市街の中心プエルタ・デ・ソルに行き着く。観光客くらいいつだって紛れ込んでくるだろうと、むしろこちらが驚く。まして、地下鉄の入り口側と立地も良い。

 

すると、カウンターに座って興味深げにこちらを見ていた先客の男性が、「イングリッシュ?」と言う。頷くと、「ブレックファースト?」と更に続ける。これは、良かった。英語が分かる人がいたとホッとしたのも束の間、それだけであった。(エッ?これでお終い。手助けしてくれるつもりじゃなかったの)と、内心ちょっとがっかりするが、甘い期待を抱いたこちらが悪い。

 

と、意を決したように女店員さんが、「・・・コメル・・」と聞いてくる。コメル(食べる)だけ聞こえたので、すぐさま頷く。そして、ショーケースに、バゲットのスライスに何か乗せた物が3個ほど入っていたのでそれを指差す。だが、男性店員さんもやって来て、二人で慌てたように、これはダメというように強くかぶりを振る。(じゃあこれは何なんだ)と思うが、黙っていた。

 

ついには男性店員さんが、入り口近くのショーケースの前に私を案内して、ここから選ぶようにとのことだ。仕方がないのでクロワッサンとカフェ・コン・レチェをお願いする。

 

パンと一緒にナイフとフォークが出される。手で食べるつもりだったので断るも、イヤイヤそうもいかないという感じで手渡される。それではと使ってみたものの、やはり食べづらいので、結局お皿の横に置いておいた。

 

クロワッサンとはいえ、形は三日月だが食感はだいぶ異なってまるで別物だ。それを口に入れながら、奥の方に見えたトルティージャにすれば良かったかなと思う。

 

それにしても、先ほどの男性客のお皿にはパンらしき物があったが、あれは何だったのだろうと、そちらも気になりながらモグモグしていた。ちなみに、新聞を読みながら食事している女性客の皿には、チュロスが乗っている。

 

そのうち、別の客が入ってきた。初老の男性だ。やがて運ばれてきた皿を見ると、トーストみたいなパンが乗っている。(アッ、私もそういうのが良かったな)、と思うが既に遅し。パンをもう一つ食べる気はしない。しかし、あれは何と言って頼むのだろう、先ほどの男性が食べていたのも、もしかしたらこれだったのかもしれない。

 

その疑問が解けたのは、メリダに行ってからであった。朝バルに行くと、トーストを乗せたお皿をテラス席に運ぶ店員さんがいた。私はすかさず、その方に同じ物をお願いする。

 

すると、「トスター(tostado)?」と聞かれたので頷く。次に、「・・、・・、トマーテ」と続けるので、「トマーテ」と答えてからカフェ・コン・レチェも併せて注文してテラス席を指差す。

 

トーストした半切りパンにトマトペーストを塗っただけの簡素な物だが、あの三日月パンよりは、ずっと私好みだ。これに気を良くして翌日の朝は別のバルで、「トーストはありますか」と覚えたての言葉で聞いてみた。店の方が頷いた後で、トマーテと付け加える。

 

席で待っていると、トマトペーストのトーストが飲み物と共にやってきた。前日のとはパンの種類が違うが、カリッとして美味しい。

 

バルセロナサラゴサでは、ショーケースやカウンターの上に、ボカデージョ(サンドイッチ)ばかりでなくいろいろな物があったので指で示すだけで良かったが、まさかケースに三日月パンとチュロスだけしかないバルが、こうも多いとは予想もしなかった。もしかすると、その方が標準なのかもしれない。

 

だが、これでとりあえず、どこのバルに入っても朝食は大丈夫だと嬉しくなる。やっぱり片言でも、俄か勉強のおかげだなと気分は上々だ。ところが、メリダでは昼食でまた困った。

 

昼頃、どこかで軽く食べようかと店を探していたら、看板のメニューにタパスという文字があるのに気づいた。これならちょうど良いと店内に入る。カウンターに座ると、店員さんが、自分はメニュー選びのお手伝いができると英語で言ってくれた。これは尚良いと、直ぐにガイドブックを開き、欲しい料理を指差す。

 

だが、ここでも会話はそこまでであった。おまけに、欲しい物はクロケッタ(小型のクリームコロッケ)しかなかった。喜んだのも束の間、ちょっとハシゴを外された気分だ。仕方がないので、自分でメニューから選ぶ。

 

注文した皿がきてまたビックリ。パタータは、ご丁寧にも小さな網カゴに入れられたフライドポテト。トマーテは、ただ薄くスライスしただけのトマト。まるで居酒屋のおつまみみたいで量も少ない。クロケッタだって、ごく小ぶりが3個であった。

 

そりゃ、バルだし、タパ(Tapa)は小皿という意味らしいが、いくらなんでもこれじゃ足らないでしょうと心の中でぼやく。単語から、サラゴサで食べたパタータをイメージしたのだが、完全にメニューを理解できなかった私の失敗であった。それと、トマトのスライスなんて、スペインでもメニューにあるんだとこれも意外であった。

 

とまあ、これに懲りて、本格的にスペイン語を学ぶことにした。といっても独学で、ただいま奮闘中だ。