照る葉の森から

旅や日常での出会いを、スケッチするように綴ります。それは絵であり人であり、etc・・・。その時々で心に残った事を、私の一枚として切り取ります。

言葉及び言葉の持つ力について考えさせられる本ー『舟を編む』

『舟を編む』(三浦しをん著・光文社・2011年)を読み終えた時、"一念岩をも通す"言葉というが真っ先に浮かんだ。そして、言葉及び言葉の持つ力についても、じっくり考えさせられる本だ。 辞書編纂という地味な仕事の話だが、引き込まれるように読み終えてしま…

もし弥生時代が牛天神時代だったとしたら?

司馬遼太郎さんの『街道をゆく 本郷界隈』を読んでいると、ちょこちょことでてくるユーモラスな考察に、思わずクスリとしてしまう。 例えば、明治になって、かつて水戸藩の中屋敷だった場所に町屋ができ、町名をつける必要が出てきた時、園庭の水戸徳川家9代…

モースが見た明治初期の日本ー『日本その日その日』

"モースは、明治10年(1877年)、腕足類(無脊髄動物)を採取するために日本に来た。 旅先の彼を珍種の鳥でも捕まえるようにして、東京大学が動物学の教授としてまねいた。"(『街道をゆく 本郷界隈』P・20) そして、モースが2年の滞在期間に果たした業績の大きさ…

何事にも周到だった家康を知り見方が変わる

『日本史の謎は「地形」で解ける 文明・文化篇』(竹村公太郎・PHP文庫・2014年)を読んで以降、徳川家康について見方が変わった。というより、それまではほとんど関心がなく、日本史で習った以上の事は知らなかっただけのことだ。殊に、狸親父的イメージが印…

明治初期の日本は動物までおだやかだった?ー外国人から見た日本

散歩している時、白に黒が交じった綺麗な毛並みの猫が、玄関先から、通りがかりの犬を威嚇しているのに出会った。犬もウウッと低く唸って、両者共に睨み合っている。丁度読み終えたばかりの本に出てくる、ネコとキツネがケンカするエピソード(『街道をゆく37…

雷の子が可愛らしい小噺

"雷様がそこいらをひと巡りして鳴らしの仕事に出ようとすると、女房が「あ、そう、御苦労さま。坊やもついでに連れていっておくれよ」と頼まれ、足手まといだとぼやきながらも、子どもに虎の皮のフンドシをしっかり締めさせ、背中に小さな太鼓をしょわせて、…

イタリアの驚くべき長寿の町アッチャロリ

ヤマザキマリさんのブログ「地球のどこかでハッスル日記」で、"人口2000人のうち100歳以上が300人"という町のことを知り、凄いなぁと調べてみたら、次のような記事を見つけた。"アッチャロリは人口およそ2000人の小さな町で、人々は喫煙し、ジョギングをする…

脇町で阿波のよさを味わいたくなる本ー『街道をゆく 32』

"阿波のよさは、ひょっとすると脇町に尽きるのではないかとかねがね思ってきたが、来たのははじめてである。"(司馬遼太郎・『街道をゆく32 阿波紀行、紀ノ川流域』・朝日新聞社)、そんなに素晴らしい町だったのかと、ページを繰った途端、目に飛び込んできた…

映画は自分が撮るつもりになって観るのも面白そうだ

『映画を見る眼』(小栗康平・日本放送出版協会・2005年)を読んで、今更ながらではあるが、映画と原作はまったくの別物と教えられた思いであった。私はこれまでずっと、(原作がある場合だが)原作を映像化したのが映画で、両者をほぼ同様と考えていた。だが映…

なかなか甘くない結末ー『春にして君を離れ』

『春にして君を離れ』(アガサ・クリスティー・クリスティー文庫81・早川書房・2004年)を読み、どうしてこのような終わり方なのかと愕然としてしまった。成功した弁護士の夫を持ち、三人の子もそれぞれにまずまずの伴侶を得て、自分の人生にすっかり満足しき…

香り高い花にひっそりとした野菜の花ー目黒天空庭園にて

ハマナスの花と実(右の丸い緑色)目黒天空庭園に来てみたら、今月初めに咲き出したハマナスが、まだ咲いていた。嬉しくなって鼻を近づけてみると、以前ほど香りが強くはない。次から次へと嗅いでみるが、どれも今ひとつだ。ならば、クマンバチが潜り込んでい…

よだかが市蔵という名前だったらー鳥の鳴き声に膨らむ想像

スピーツスピーツ、チュチュチュンにキュルリだかキュウ~イだか鳴く鳥たちに交じって、ギーギーとずいぶんしわがれた声。その姿にオナガと判ったが、スッーと伸びた長い尾を中心に、両翼を広げカッコ良く飛ぶ様子に、その声は似つかわしくないなと思う。そ…

親子関係はもっとあっさりが理想だー映画『海よりもまだ深く』を見て

『海よりもまだ深く』(渋谷シネパレス)を見てきた。これまで日本映画やテレビドラマにほぼまったく縁がなかった私が、役者さんに言及するのはおこがましいが、阿部寛のダメっぷりはなかなか板についていた。かつて「坂の上の雲」で秋山好古を演じた時の、凛…

こんなにユーモラスだったのとあらためて注目ー『注文の多い料理店』・他

『注文の多い料理店』(宮沢賢治・青空文庫より)を改めて読んでみると、なかなか含蓄に富んでいておまけにユーモラスだ。実際はまったく逆の状況であるにも関わらず、何でも自分に都合良く解釈するのは人の常で、ここではその心理状態をうまくとらえている。…

時刻表の表紙に見入る幼子ー子どもと本

図書館の雑誌コーナーの前を歩きながら、「ちょろちょろ帰る?」と少し離れたところにいる母親に声をかけていた3歳くらいの男の子が突然、ウォー!とかウァー!と感嘆したような声を上げて足を止めた。何を見つけたのかなと、丁度近くの椅子に座っていた私も…

意思的で美しい妻オルタンスの姿に〜セザンヌにはこんな絵もあったんだと驚く

『セザンヌ』(メアリー・トンプキンズ・ルイス著・宮崎克己訳・岩波書店・2005年)は、しばしば引用される批評家のよくわからない表現や、思い入れの強さに引っかかりながらも読み終えてみれば、セザンヌの軌跡を丹念に探ったその成果に深く感じ入る。セザン…

漫才のようなインタビューでの受け答えに思う

三島由紀夫賞を受賞した蓮實重彦さんのインタビューでの受け答えが、まるで漫才を聞いているかのようで、一言づつが可笑しい。ツイッターで流れていたので、早速その記事を読んでみた。司会者に今のご心境はと聞かれ、"「ご心境という言葉は私の中には存在し…

我欲とは真逆な人々を描いた映画ー『殿、利息でござる』

質素を貫くフランシスコローマ法王やホセ・ムヒカ元ウルグアイ大統領のような人が話題になるのも一時で、その暮らしぶりを見習おうとする者などごく稀だ。とりわけ昨今は、『無私の日本人』(磯田道史・文藝春秋・2012年)どころか我欲の日本人と茶化したいほ…

重いテーマにせつなくなる章〈硬くて冷たい椅子〉『カテリーナの旅支度』より

『カテリーナの旅支度 イタリア 二十の追想』(内田洋子・集英社・2013年)を読んだ。『ジーノの家』同様、さまざまな人生模様がじわっと心に染みてくる本だ。大半は豊かで恵まれた、もしくは、出自が貧しくとも成功を手にした人々の話で、その山あり谷ありに…

さまざまなセザンヌ像にやや疲れ気味な今日この頃

このところずっとセザンヌに関しての本を読んでいるが、研究者毎のセザンヌ像があってなかなか読みにくい。皆さん崇高の度合いが強く、自分の中からありとあらゆる賛辞の言葉を探しているのではと思わせられる絵の解説には、とりわけ辟易する。もっと淡々と…

ヤマザキマリさんの『イタリア家族』はとてつもなく面白い

ヤマザキマリさんの『イタリア家族 風林火山』(ぶんか社コミックス・kindle版)が299円だったので、コーヒー1杯分ならと試しに買ってみた。デフォルメされているのだろうが、それにしてもよくこんな家族いるものだと、あまりの面白さにたちまち読み終えてしま…

田中一村の『アダンの木』に魅せられて

奄美の杜8ービロウとブーゲンビレア(複製画部分)奄美の杜8ービロウとブーゲンビレア(複製画全体)会社を辞める時、知り合いから頂いた物の一つが、田中一村の複製画だ。切手となった下の部分よりも、むしろ上の方が好きだ。半分だけ写真に収めてから、勝手に…

さまざまな観点から絵を見るとグンと興味が増す

『複眼のヨーロッパ美術紀行』(鈴木久雄・新潮社・2008年・6月)は、時代背景や画家個人に関しての丁寧な記述に、こちらも、絵をまさにその"複眼"を通して見せてもらっているような気がしてくる。それはあたかも西洋美術史の講義を受けているようで、1章から…

近隣住民が利用できる大学図書館は有難い

隣接区にある大学図書館で、1年有効のライブラリーカードを作ってもらった。区立図書館の共通利用カードと、住所を確認できるもの(免許証など)を持参、3cm角の証明写真に登録料1000円を添えて申請する。カードが出来上がるまで20分ほどということなので、新…

心が温かさを求めた時には『旅屋おかえり』をぜひどうぞ

『旅屋おかえり』(原田マハ著・集英社・電子版)は、読み終えた途端、身体中が温かさに包まれる本だ。登場する人のほとんどが、思いやりに溢れた優しい人ばかりで、現実からやや離れている感もあるが、世の中が殺伐としている時には、それが嬉しい。住民の反…

勇気が湧いてくる本『ウーマンアローン』

自分に今ひとつパワー不足を感じ、一歩を踏み出せないでいる人にお勧めなのが、この『ウーマンアローン』(廣川まさき著・集英社)だ。最初のページを開いただけで、元気がみるみる充満すること間違いなしで、悶々としていたことも忘れ、すぐにでも行動したく…

ファンタジーの世界への入り口を見つけたらーちょっと覗いてみませんか

「あんた、ピノッキオかい?」と、ベンチに腰掛けている僕に向かって、山吹の茂みから不意に現れた、まるでオールドアリスみたいな老嬢が唐突に尋ねてきた。「エッ・・」と僕は、何が何だか分からぬまま言葉を詰まらせた。だって、僕の顔には、どこにもピノ…

「空色の楽園」から引き継いだ問いはいつでも自分の考える基準としたい

アントニオ・タブッキの「空色の楽園」(『逆さまゲーム』・須賀敦子訳・白水社)を読み始めたら、秘書求むに応募した若い女性が、いかに自分のイメージを高めるかに心を砕く様に、つい先頃、メディアを賑わした学歴詐称問題がふと浮かんできた。今回の件では…

『楽園のカンヴァス』の謎解きにひきこまれて

私は原田マハさんの『キネマの神様』を読み、この方の映画を通しての物事の捉え方に深く共感し、それでは他の本もと、『ジヴェルニーの食卓』と『楽園のカンヴァス』をすぐさま電子版で買った。『ジヴェルニーの食卓』を読み始めた当初は、画家の生きた時代…

無人島に持ってゆくとしたら?ー私が迷わず選ぶ本

もし、無人島へ行くなら、持っていきたい本は何だろうと考えることがある。私にとって何度読んでも色褪せない本は、和辻哲郎の『古寺巡礼』だ。もう1冊OKとなったら、『イタリア古寺巡礼』も加える。来週、大阪へ出張するついでに、休みを利用して奈良へも回…